Collaboration Talk Series vol.5  前野朋哉 × 吉田大八

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  • 2018.01.25

Collaboration Talk Series vol.5
前野朋哉 × 吉田大八

『こらぼる』とは…?
異なるステージ、異なるフィールドで活躍する2人が、聞き手と話し手をシフトしながら、それぞれの「核心」について発見し合う、1対1のコラボレーション・トーク連載。

今回対談するのは、日本映画界を牽引するトップランナーで、最新作『羊の木』(刑期を終えた男女6人の移住を受け入れた或る寂れた港町の崩れていく日常を描いた人気漫画の映画化。)の公開を間近に控える映画監督、吉田大八。対するは、現在放送中の連続テレビ小説『わろてんか』はじめ、メディア横断で活躍するバイプレイヤーであり映画監督の顔も持つ前野朋哉。『羊の木』についての話を起点に、映画賞を総なめにするなど吉田大八監督の名前を広く知らしめ、俳優・前野朋哉の出世作にもなった『桐島、部活やめるってよ』(2012)の回想も交えながら、演出論から裏話まで、過去と現在を語らう多様な対話となった。

(撮影: 轟あずさ / 構成: 川端哲生)

 

 

やっぱり、僕にとって前野君は俳優というより映画監督。初めて会ったのも富川の映画祭だった。若いことがまず驚異でしたね。(吉田)

■通過点としての『桐島、部活やめるってよ』

 

吉田: 前野君が結婚してから会うのはこれが初めてになるのかな? 覚えている限り、最後に会ったのが舞台『ぬるい毒』(2013)を観に来てくれた時。その時には確かタオルを巻いていた気がする。前野君っていつも首にタオルを巻いているイメージがあるんだけど。

 

前野: 巻いてました(笑) でもあの時にはもう結婚はしていたと思います。今はもう子供が2人います。

 

吉田: 子供が沢山できているという噂は聞いていたんですよ。もちろん、テレビや映画での活躍はかねがね拝見しています。

 

前野: ありがとうございます。『羊の木』観させて頂きました。面白かったです。

 

吉田: 面白かったと言わないと対談が成立しないもんね(笑)

 

前野: 本当に面白かったです。観終わった後に吉田監督らしさをより実感できた感じで、『桐島、部活やめるってよ』とシンクロするものも感じました。群像劇ってこともそうですし、閉ざされた「箱庭」の中での出来事という部分も共通しているのかなと思いました。あとやっぱり、これだけの豪華キャストが揃っているのに、誰も強すぎないし、弱すぎない。かといって、ただバランスがいいだけではなくて。そこが、同じ群像劇でも某メジャー映画と違うなって(笑)

 

吉田: そんなこと言って、大丈夫ですか(笑)

 

前野: (笑)打ち出し方はサスペンスですけど、人間ドラマとして観ました。俳優目線で考えた時に、この作品の世界観に溶け込むのは簡単じゃないだろうなって思いました。自分が演じるなら、水澤(紳吾)さんか、松尾(諭)さんの役かなって思いながら観たりもしたんですけど、たぶん出来ないなって。

 

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吉田: なるほど、俳優としてはその2人の役に重ねるんだね。

 

前野: どうしても水澤さんに目がいきがちで。映画の最後に向けて、水澤さんの目が変化していくのが印象的でした。

 

吉田: 水澤さんとはよく共演しているんだっけ?

 

前野: 正直よく覚えていなくて…(笑) それくらい普段お会いすることが多い方なんです。近所のおっちゃんが出演している感覚で観てしまうので、お酒をのむシーンなんて…。実際、お酒を飲むとよく違う世界に行かれる方なので(笑)

 

吉田: 根はしっかりしている人だよね。僕も仙台で一緒にのんだことがあって、彼は酔っ払って途中でフラフラと1人で消えていったんだけど、次の日に早めにお昼を食べる約束をしていて「あの様子じゃ来ないだろうな」って思ってお店に行ったら、スッキリした顔で彼は先に来ていて…。

 

前野: 怖い(笑) それはそれで逆に怖いです。水澤さんがお酒を吞むシーンはリアルとリンクしちゃって、いい意味でドキドキしました。

 

吉田: 現場でもあのシーンは水澤さんの演技をスタッフ皆が息をのんで観ていましたよ。撮影の半年後にやる予定だった舞台(『クヒオ大佐の妻』)の出演オファーを現場で直接彼にしたからね。松尾さんの役はドラムを叩けなければいけなかったんだけど、前野君は、確かベーシストの役をやったことがあったよね?

 

前野: 入江悠監督の作品(『日々ロック』)でやらせて頂いたことがあります。劇中の松尾さんのドラム、すごかったですね。

 

吉田: 彼はドラム経験者では無かったので、クランクイン前に都内で相当練習したんですよ。ギターを弾いてもらっている木村文乃さんもそうなんだけど。

 

前野: じゃあ、劇中で流れるのはリアルに演奏した音なんですか?

 

吉田: 後で音源を重ねていますけど、曲として聴けるレベルにはちゃんと弾いています。映画を観た人には、曲調が暗いとか言われることもあるんですが、自分が高校生くらいの時には流行っていて、みんな演奏していたジャンルなんですよ。木村さん演じる文の好み、という設定だけど。

 

前野: インストバンドでしたけど、木村さんが弾いているギターも綺麗なメロディではなくて、映画の不穏な感じに合っていました。松田龍平さんが異物として加わることで、スリーピースの調和が乱れていく様にドキドキしました。あと、窓越しの画の構図が面白かったです。

 

吉田: あの画、いいでしょ。さすが観ているところが違う。やっぱり、僕にとって前野君は俳優というより映画監督。はじめて会ったのも富川の映画祭(富川国際ファンタスティック映画祭)だった。ジョニー・トーに絶賛された日本の若手監督が来るって話で、会ったら夜の酒場に紛れ込んだ中学生みたいな感じだった。若いことがまず驚異でしたね。その後、『桐島〜』で前野君が演じた武文役をキャスティングする時、前野君のことを思い出したんだけど、富川では中学生みたいな印象だったのに、他の作品で観たら思ったより若くなくて…。

 

前野: 演じた当時の実年齢も26歳でした。

 

吉田: そう。高校生役は無理だろうって思ったから、あくまで「前野君みたいな人を探して下さい」と要望したんだけど、オーディションの日にリストを見たら前野君の名前があって、何で?と思いながら、わざわざ呼んでおいてそのまま帰すのも悪いから、一応やってもらった芝居がやっぱり圧倒的に良くて。まぁ、制服着てれば大丈夫かなってことで前野君に決めた。

 

前野: あの2年後くらいに、ブレザーを着る高校生の役を演じる機会があったんですけど、完全にタクシー運転手にしか見えなくて…(笑) 吉田監督にもタクシー運転手役のCM (ベンチャーリパブリックTravel.jp空の最安値)に呼んで頂きましたよね。本当、うちの嫁とも「吉田監督には足を向けて寝られないね」とよく話します。

 

吉田: そんなこと絶対話してないでしょ(笑)

 

前野: 本当に『桐島〜』様々です。

 

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吉田: 前野君も含めて、あの映画が若い才能ある俳優たちを見出したみたいに言われることもあるけど、出演者の現在の活躍のおかげでそう見えるだけです。才能ある人達が、たまたま『桐島〜』を通過してくれただけのことだから。そろそろ皆の出演作リストから『桐島〜』ははみ出していると思うけど、監督のフィルモグラフィには今もしっかり『桐島〜』は入れてます。

 

前野: 僕も入ります…。というか入れてます(笑)

 

吉田: もっと頑張ってください(笑) 若いキャストが多かったから、『桐島〜』が過去のものになるくらいに活躍できたらいいね、みたいな話を当時もした覚えがある。少し格好つけて言ったところもあったけど、結果、本当にそうなったから。

 

前野: 今でも現場で『桐島〜』の出演者と一緒になるとやっぱり嬉しいですね。最近も松岡(茉優)さんと現場が一緒だったんですけど、松岡さんは、監督が言われたようにちゃんと経たものとして捉えている雰囲気がありました。もちろん、具体的に何か言われたわけではないですけど。僕は馬鹿みたいな顔で「桐島ぶりだね〜」とか相変わらずな感じで(笑)

 

吉田: 中学生に見えた前野君が今では二児の父なんだから時は流れました。

 

 

纏っているジャンルの違う人達を一カ所に集めた時に何が起こるのかを離れて外から眺めている感覚なのかなと思ったんです。(前野)

■観客との距離、俳優との距離

 

前野: 『桐島〜』の時は、所属の部活ごとにグループ分けして、リハーサルをしていたじゃないですか。あのやり方にはどういう狙いがあったんですか?

 

吉田: シーン毎に抜粋してリハーサルをやったと思うけど、確かに前野君が演じた武文のいた映画部はラストの屋上のシーン以外は他との絡みが少なかったからね。でもバレー部にしても帰宅部にしても撮影前に一緒になってリハはしていなくて、撮影が始まったら若いし仲良くやるだろう、くらいに考えていただけで、敢えて本番までお互いを隔離してカメラ前での反応を期待するとかそういう特別な意図があったわけではなかったんだけどね。

 

前野: 狙いがあったわけではなかったんですね。

 

吉田: 全く。あの時は自分も手探りだったから、演出的な特別な企みを持つ余裕も無かったですよ。年齢的に高校生から遥か時間が経っている自分が書いたものを若い人達に喋ってもらって馴染むのかを見極めるのに一杯一杯なところがあったからね。

 

前野: 『桐島〜』と『羊の木』が似ていると個人的に思った点は、登場人物それぞれのエピソードが独立してメインになっても成立するということなんです。『羊の木』の出演者の皆さんが纏っているジャンルっておのおので違うじゃないですか。そういう人達を一カ所に集めた時に、何が起こるのかを離れて外から眺めている感覚なのかなって思ったんです。吉田監督はある種、実験者としての側面があるんじゃないかと思っていて、そういう意識はあったのかお聞きしたかったんです。

 

吉田: う〜ん、でも作者目線でそれ以外に意識の入りようがあるのかな。言われてみると確かにそうで、実験って言い方には多分に語弊があるけど、化学反応のような何かが起こることを期待してキャストに集まってもらっているのは確かです。あとは『羊の木』では、“のろろ”(物語の舞台である町で祀られている神様)であり、『桐島〜』では劇中には登場しない桐島君のような外からの視点を配置する癖というか好みはきっとあるんでしょうね。

 

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前野: 吉田監督の映画には、映画を観ているお客さんとの距離感に特徴があると僕は思うんです。登場人物にのめり込ませないんです。何を考えているか分からないので、一歩引いて見ておこうみたいな気持ちにさせられる。それがすごく面白くて。錦戸(亮)さんもあの距離感が絶妙で素晴らしいなって思いました。こちら側に想像させる余地が広くて、「こうです!」って断定させない。

 

吉田: 確かに「こうです!」みたいな答えを提示するのが苦手かもしれない。

 

前野: むしろ苦手なんですね。僕も監督としては作品に答えは出したくないタイプです。照れだったり、断定できない自信の無さもあるんですけど、やりたいことはシーンの中に詰め込むけど、作品全体を通しては曖昧にします。その方が面白いので。『羊の木』もそうですけど、観る側に答えが委ねられているような映画が個人的に好きで、家に持ち帰って考えたり、繰り返し観ようという気持ちにさせられる方が好きなんです。

 

吉田: だけど、最終的な映画の仕上がりは別にして、本来なら現場では嘘でもいいから、もう少し具体的な基準や拠りどころは示した方がいいと思うこともあるにはある。俳優にもそれを示せないからね。示せないというか、示さないというか。現場で俳優に質問されたら困るなと思いながら、いつも答えを用意していない。

 

前野: 俳優に質問された場合はどうされるんですか?

 

吉田: 説明する振りをしているけど、大事なことは分からないから後は自分で何とかして下さいという本音が、きっと顔に出てる。『桐島〜』のキャストは若かったから、勢いで乗り切れたけど、俳優によってはちゃんと説明しなければいけない局面があったのかもしれない。だけど、答えを出さないで俳優の人にそこに居てもらう方が心地いい。

 

前野: それが映画に特有の距離感を生む要因なんですかね。

 

吉田: 脚本には役について色々書いてはいるけど、ゴールがはっきりしていると俳優は最短距離を目指すじゃないですか。結論や目標に向かって演じてもらうことが気持ち悪いんです。逆にこちらの方が俳優に驚きたいし、ひっくり返されたいという気持ちも多少あります。

 

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前野: 特に優香さんが演じている役が難しそうだなって思いました。脚本を読んだだけではたぶん理解出来なそうというか、演じ方もどうやっていたんだろうって興味があります。

 

吉田: その意見は俳優目線でとても面白いね。

 

前野: 本当にどちらに転ぶか分からなくて、結果的にはすごくピュアな想いが結実しそうな役ではあったんですけど、常に危うさを伴っていたので。それは他の役にも言えることではあるんですけど、特に優香さんの役にそう感じました。

 

吉田: 優香さんとも撮影の前に何度か話はしたけど、結局「自分でなんとかするしかない」と覚悟したと思う。あとは監督を、現場を信じるという心境でカメラの前に立っていたはずです。事前の話し合いというのは実は撮影には関係ないし、もし何か躓けば、撮影を止めてそこで話し合ってもいいわけで、だから自分の中では、撮ってみた方が早い、とつい思いがちです。それじゃダメなのかもしれないけど。

 

前野: 『桐島〜』の時は、入念にリハーサルを重ねてクランクインしたので、ちょっと意外でした。

 

吉田: あの時は、若い俳優に慣れるという意味での不安感を解消する目的が大きかったのかもしれないね。それに、リハで固めたものを本番にそのまま持ち込むやり方をしたわけではなかったし、俳優とのウォーミングアップみたいなものだったと思う。

 

前野: 後にも先にもあんなに集まってリハーサルしたことはないです。

 

吉田: あの作品のあのタイミングだからこそ許されたし、通用したやり方なんだろうね。今回はリハらしいリハはしてません。錦戸君は先に色々言うよりも、やってみてからチューニングしていくというやり方がしっくりくる人だったから今回はそうなった。また違う現場では、全く別のことを言っているかもしれない。

 

 

完成した『羊の木』を観たばかりの錦戸君に「脚本に全部書いてありましたよね」と言われた時は本当に嬉しかった。(吉田)

■俳優にとっての演出家と演出家にとっての俳優

 

吉田: 『羊の木』は、原作者として山上たつひこ先生といがらしみきお先生という僕ら世代には神と言えるような漫画家のお二人が並んでいます。ある意味お二人の暴れっぷりが魅力の漫画だから、そのまま映画にするのは無理だと思った。この作品に限らず、事前に「形は全く変わりますけどいいでしょうか?」という了承だけは原作者サイドに得るようにしていて、言わばスピリットみたいなものが間違っていないという自分なりの確信があれば、あとは逆に、原作のダイジェストになってしまわないためにも映画は映画の道を行くしかない。

 

前野: 小説や漫画を映画化する時、大事になるのって、その原作に対しての目線なのかなって思います。

 

吉田: たまに聞かれるけど、オリジナル脚本か原作モノかは、あまり気にならないんですよ。映画を観る人にとって、オリジナルかそうじゃないかってどれくらい関係あるんだろう。それを問題にするのは、大相撲の横綱は日本人がいい、という話となんか似ているような気がします。

 

前野: 原作が好きだから観るというお客さんはいるとは思いますけど、映画を観て受ける感情は映画によるものだから、結局、映画次第なんですね。

 

吉田: 前野君は監督として、原作を脚色して映画にしようと思ったことはある?

 

前野: 一度やらせて頂きました。大橋裕之さんの漫画が原作の『ねんりき!北石器山高校超能力研究所』という橋本愛さん主演のドラマなんですけど、やっぱり原作に忠実にやろうとはしなかったです。大事なところというか、自分の好きなところを取り出しました。あとは、かなり癖のある主役を橋本愛さんに演じて頂いたこともあって、どうなるのか自分でも全く想像つかなかったので、橋本さんの芝居でパキンと方向性が見えたところもありました。

 

吉田: 以前から言ってるけど、前野君にはもっと映画を撮ってほしいんです。俳優で忙しくなることはもちろん素晴らしいことだけど、才能がある監督だから。『GOGOまりこ』(2008)って作品が本当に面白かった。『筋肉痛少女』(2013)以降は撮っていないよね?

 

前野: 今年一本短編(『春夫と亮二 第一話河童』)を撮りました。久しぶりの自主映画だったんですけど、撮っておかなければと思ったので。NHKの単発のドラマを何本かやらせて頂いて、それはそれで面白いんですけど、制約や各所の思惑は当然あるので。遊ぶような感覚で好きに撮りたいと思って、なんなら撮影中に温泉に入りたいという理由でロケは温泉地を選んで(笑) スタッフに同級生を呼んで、「日頃、ストレスあると思うけど楽しもう」って(笑)

 

吉田: すごいね(笑) 楽しめましたか?

 

前野: 大変でした(笑) 結果、温泉に入れたのは夜中の2時でした(笑)

 

吉田: そうだよね(笑) 温泉で撮影したいという人いるけど、それなら撮影を終わらせてから温泉に行った方がいいと思う。

 

前野: そこは学びました(笑) でも撮ったことは良かったです。映画づくりの大変さを再認識できたので。SHINPAというイベントに声を掛けて頂いて、東京国際映画祭で一度だけ上映したんですけど、観た方に面白いと言ってもらえましたし、お客さんに観てもらう喜びや緊張感を思い出せました。

 

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吉田: 前野君は『桐島〜』の撮影の時も自分の作品の編集をするために、ロケ地の高知まで、デスクトップのパソコンを背負って持ってきていて、本気だなと思った覚えがある。キャストの中に監督がいることは、実は僕の中で刺激にもなっていたんです。若い世代の監督の目に常に晒されているという危機感みたいなものを前野君がいることで持てていたというのはあったから。

 

前野: そ、そんな…。そこまで考えていなかったです…。

 

吉田: それはそうでしょう。僕が一方的に意識してました。

 

前野: 自分の出自や肩書きについては、いまだにふわふわしてると感じる瞬間はあります。

 

吉田: 無理に決めなくていいし、その自由さに憧れる人はいると思いますね。俳優も監督も出来るのは強みだし、羨ましくもありますよ。

 

前野: 俳優部からしてみたら、僕は俳優として腹を括れてないという事実が根にはあると思うんです。監督からも「こいつは両方の目線を持っている」と思われていると感じる時があります。

 

吉田: 監督からは信頼されやすいんじゃないかな。前野君なりの視点で程よく演出的な抑制を効かせてくれることを期待したりすることはあるかもしれない。本人は現場では俳優という意識でいるんだと思うけど、切り離したとしてもどこかに残っているんじゃないかという、これは演出するこちら側の勝手なロマンだけど。例えば、ウディ・アレンが自分以外の映画に俳優として出演する時はスペシャルな何かを纏うわけです。だから得なポジションなはずですよ。同じ俳優からは警戒されている雰囲気がある?

 

前野: あります。悪口とか嫌な気持ちにさせようとするためじゃなくて、「俳優一本でやっている自分はお前とは違う」ってことを伝えたいんだと思います。でもその通りで、僕は根っからの俳優になれないし、そういう方達には到底かなわないという意識があります。それは『羊の木』を観ていても思いました。出演されている俳優の方達のような、そこに生きている芝居は自分には出来るのだろうかと感じさせられました。

 

吉田: じゃあ、監督もする俳優としての強みとして意識するものは何かある?

 

前野: 現場で俳優さんと仲良くなれることですね。この俳優さんに自分の映画ではこういうことやってもらいたいなってどこかで考えているんです。橋本愛さんもまさにそうでした。

 

吉田: 俳優兼業の監督の人に対して俳優の人がよく言う言葉に、「あの監督は俳優の気持ちが分かるからすごく演じやすい」というのがあるよね。

 

前野: でも、俳優の気持ちを分かっていたとしても実際の現場では気持ちを汲んだ演出は全くできないんですけど…(笑)

 

吉田: 僕も完成して初号の打ち上げで言われたりする。「現場で監督は何を考えて、何を要求しているかさっぱり分からなかったけど、映画を観てやっとわかった」と俳優に言われたりすると、「現場で普通に会話していたのに?そんなに!?」と、少し怖くもあるんです。結局監督は、出来上がった作品で説得するしかない。

 

前野: 僕は俳優で出演している時に全体のことを考えてやれていなくて、例えば、『桐島〜』なんかはいい意味で見事に裏切られました。とにかく「すごい!」って思いましたから。僕は単純に前田や武文の映画部が大活躍する作品というマインドでいました(笑)

 

吉田: それはむしろ良かったですよ。

 

前野: はい、そう思います。吉田監督が離れた目線で作品全体を構成することでこういうメッセージの作品として出来上がったんだと思ったんです。脚本の印象と出来上がりが今までで一番違った作品でもありました。

 

吉田: 自分としては隠しているつもりはなくて、脚本にも全て書いているつもりだからそれがうまく伝わってないのは自分の伝え方に問題があるせいだと感じることもある。出来上がった作品で俳優に喜んでもらってる間はまだいいんだけど。だから今回、完成した『羊の木』を観たばかりの錦戸君に「脚本に全部書いてありましたよね」と言われた時は本当に嬉しかったです。

 

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PROFILE 吉田大八 Daihachi Yoshida
映画監督。1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクターとして国内外の広告賞を受賞し、2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され話題となる。その後の監督作として『クヒオ大佐』(2009)、『パーマネント野ばら』(2010)、『美しい星』(2017)がある。『桐島、部活やめるってよ』(2012)で日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞。『紙の月』(2014)で優秀監督賞受賞。また、舞台『ぬるい毒』(2013)、『クヒオ大佐の妻』(2017)の作・演出も。最新作『羊の木』が2018年2月3日より全国公開。

 

Information
▶︎映画『羊の木』

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前野朋哉 Tomoya Maeno
俳優、映画監督。1986年生まれ。岡山県出身。石井裕也監督の『剥き出しにっぽん』(2005)にて俳優として映画デビュー。主な出演作に、『桐島、部活やめるってよ』(2012)、『青天の霹靂』(2014)、『日々ロック』(2014)、『エミアビのはじまりとはじまり』(2016)、『エキストランド』(2017)、『勝手にふるえてろ』(現在公開中)、『嘘八百』(現在公開中)、ドラマ『マッサン』、『わろてんか』(現在放送中)など。主演・監督をつとめた『脚の生えたおたまじゃくし』(2010)は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で2冠に輝く。また、auのCM「三太郎シリーズ」の一寸法師役も話題に。主演最新作『チェリーボーイズ』が2018年2月17日より全国公開。

 

Information
▶︎映画『チェリーボーイズ』 ▶︎映画『嘘八百』 ▶︎映画『勝手にふるえてろ』
作品情報 『羊の木』

 

 

監督: 吉田大八
脚本: 香川まさひと
原作: 山上たつひこ、いがらしみきお『羊の木』(講談社)
出演: 錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平
配給: アスミック・エース

 

2018年2月3日(土)より全国ロードショー

 

th © 2018「羊の木」製作委員会 ©山上たつひこ いがらしみきお/講談社