(撮影: 轟あずさ / 取材・文: 川端哲生)
———ミクは等身大の女性でありつつ、村岡の心象を代読するような存在でもあるので、趣里さんにピッタリな役に思えました。どのような経緯でキャスティングに至ったんでしょうか?
福間: 趣里ちゃんは女優として天才的だってことを聞いていたんです。
趣里: そんな、そんな。
福間: 具体的には、山戸結希監督の映画『おとぎ話みたい』の予告編(2013年8月に行われた「愛のポエトリーナイト」の映像が使用されている。)で、詩を朗読する趣里ちゃんを見て、いけると思ったんですね。『秋の理由』は60代の男2人の間に女1人が挟まれる関係性が基本にあるんだけど、元々ね、若い女性が真ん中にいて、そこから世界が広がっていくのが、夢と現実がぶつかる映画というものだと僕は思っているので、若い女性がいてほしいんです。言われる通り、ミクは作家の村岡の頭の中にいる存在でもあって、つまり、村岡はミクのような女性が活躍する小説を書いていた人ということなんです。
———ミクに対して、趣里さんはどんな印象を持ちましたか?
趣里: 私は台本を読んで、素直に面白い、って思ったんです。難しい役柄とよく言われるんですけど、そんなことはなくて、言葉もスッと入ってきたし、世界観が心地良くて、演じていて楽しかったです。監督が撮影中に仰っていたのは、「空から舞い降りて来たような子」でした。現実感が無いというか、何センチか宙に浮いてるようなイメージ。私もミクみたいに居られたらいいなって思う面もありました。
———悩みも抱えているけれど、ある種、天使のような存在ですよね。
福間: 天使のように、楽しく踊ったり歌ったりするのをただ描くことはそんなに難しくなくて、そういう天使のような存在が地面に降りてきて、悩みを抱えて生きている人達に寄り添う。また彼女もそこから何かを受け取るということを描きたかったんです。例えば、村岡とミクが会うシーン(映画の終盤、村岡とミクの2人が実際に初遭遇する場面)を最初に撮影したんだけど、あのシーンこそ、おたがいが与え合うシーンなんです。
———趣里さんの女優としての特色に身体表現があると思います。ミクが踊ったりする描写は無いですが、何気ない所作に引き付けられるものがありました。
福間: 僕からは特にこうして欲しいとは言っていなくて、趣里ちゃんのリズム感がフッと自然に出ればいいかなと思っていたんですね。実際にミクの撮影はとても楽でした。宮本、村岡、美咲の大人3人については、1つ1つ考えて作っていかないといけないなってところはあったんだけど、カメラマンの鈴木一博も「趣里ちゃんは福間映画向きだから、考えなくていいよ」という感じになっていて(笑)
趣里: 嬉しいです。
———日常的な所作にもバレエの素養が活かされている感覚はありますか?
趣里: 舞台などで物理的に動くような時には役に立っているんですけど、それ以外では特に意識はしていなくて。でも今回、監督も「ここは柵を飛び越えてみようか」みたいに、引き出して下さいました。
———舞台女優としても活躍されていますが、映像と舞台の違いで意識していることはありますか?
趣里: もちろん声量は違ってくるのでそこの使い分けはあるんですけど、お芝居に関しては特に意識していなくて、その場で生まれるものが重要だと思うし、相手役との兼ね合いもあることなので、常に柔軟でいたいなという気持ちはどちらも一緒なんです。
福間: 僕は舞台はあまり観ないんだけど、本当はそんなに変わりはないんじゃないかなって思うところはあるんです。映画という表現は幅が広くて、舞台をそのまま撮ってそれが映画になることもあるし、実際にそういう良い映画もある。だから、演劇的で嫌だって言われてしまうような映画は、実は演劇側から見ても優れていないということなんじゃないかと思いますね。
———その通りだと思います。どのようにしてミクを馴染ませていきましたか?
福間: 衣装合わせの時に話をして、そこで一緒に衣装を決めながら、作っていきましたね。
趣里: ミクの衣装も私はすごく好きなんです。
福間: 最初着ているコート、サイズは相当大きいんだけど、ミクは誰かから貰って着ているというような、説明すれば出来るような設定は一応あるんです。バイトを始めたあとなら、ちょっと高いセーターを着ててもいいかな、とかね。
趣里: 私は、自分とは全然違うミクを演じることにワクワク感がありました。例えば、「宮本さんは私とやりたいと思う?」って、絶対に私は言わないので。ミクはそれを嫌らしくなく言える子なので、すごく魅力的なんです。
———共感とはまた違う感覚だったんですね。
趣里: そうですね。演じていて新鮮でした。でも、ミクが小説の中で喋る言葉は、自分の中で言いたいなって気持ちが湧いてくる感覚があったんです。
福間: 朗読については、趣里ちゃんが僕の言葉を面白いと思って読んでくれてるのが伝わってきて、それが良かった。
———モノローグパートは、詩人である福間監督の言葉を趣里さんが発することで、より言葉に力を得ている印象も受けます。
福間: あれは何テイクか撮っていて、微妙にね、テイクによってどれも違う味があるので、キープしておいて、編集の過程でどれがいいか選ぶような贅沢なことをしましたね。
———趣里さんのリーディングの魅力というのは、何に因るものなんでしょう?
趣里: たぶん、演劇やお芝居を始めるってまだ考えていなかった頃に、岩松了さんの舞台をよく観ていて、それがきっかけで演劇が好きになったんですけど、岩松さんの作品も詩的で不思議な世界観で、そこに惹かれます。それが関係しているかは分からないですけど、言葉で説明できない感情が描かれている作品が私は好きなんです。
福間: 詩というのは、どういう意味のことを伝えているかではなくて、言葉自体の力を感じてもらいたいところがあるんです。趣里ちゃんにはそういうことへの感受性があるのかなと思います。今、思い出しだけど、ナレーションを録った時に、僕の詩を読むために生まれてきてくれた人なのかなと、そんなことを思ったんです。
———今回、美咲を演じる寺島しのぶさんとは共演シーンは少ないですが、今年4月に舞台『アルカディア』でも共演されていますね。
趣里: そうなんです。でも舞台より映画の撮影の方が先だったので、映画の衣装合わせの時に初めてお会いしました。撮影中は、すれ違うことすらなかったので、次は舞台でご一緒するまで会っていないんです。
福間: 初日だけ現場は一緒だったんだけど、でも会わなかったね。
趣里: 会わなかったですね。だから、しのぶさんが演じられた美咲を実際に観たのは、関係者試写の時だったんです。
———舞台の期間中にもこの映画についての話はされましたか?
趣里: 面白い作品だったねって話はしたんですけど、しのぶさんは「そうだよね、ミクは趣里ちゃんなんだもんね」って。それぐらい会っていなかったので(笑) しのぶさんは本当にカッコいいんです。しのぶさんが映るとその場の匂いや空気が伝わってくる。現実味が溢れてくる感覚があるんです。しのぶさんのお芝居を見るといつもそう感じますし、舞台でも2ヶ月くらいご一緒して、母として、女性として、女優として、とても憧れます。
———劇中の美咲はミクと対比した存在にも見えます。
福間: 村岡が実際に一緒に暮らしていたのが美咲、頭の中で描いていたのがミクで、2人が重なる部分はあると思うんだけど、例えば、それを映像でオーバーラップさせたり、美咲の主観的な繋がりでミクが出てくるようなことを編集でしなくても、それは伝わるのかなと思ったんですね。
———福間監督が以前どこかで、社会の現実を踏まえた上で、それに対してどう自由に表現するかが大切と仰っていたのがとても印象に残っています。福間監督の表現についてどう思いますか?
趣里: 私は、映画なら監督、舞台なら演出家の方々の世界を演じ手として体現する「絵の具」みたいに思ってるんです。だから、それに応えたいという思いがまず一番にあります。自分がどんなにいいと思っていても監督が良くないと思っていたら嫌なので、そういう信頼関係を築くことが大切だなって思います。
福間: 確かにその通りなんだけど、でも実際にはどのシーンもやってみなくては僕も分からないところがある。役者がいて、スタッフもいて、そこから何かが生まれてこなくちゃ面白くないし、事前にそこまでは僕も考えてない。趣里ちゃんから僕は何かを貰って、僕と趣里ちゃんの間に何かが生まれてくることが大事なんです。そういう意味では本当に今回はキャスティングに恵まれました。特にメインの4人はそれぞれ芝居の質も違うから(笑)
趣里: そう思います(笑)
福間: その違いがアンサンブルになって、面白さとして出ていると思うんですけどね。あまりにバラバラすぎても困るんだけど。
趣里: それぞれ違う世界を持っている人達が集まった現場だったと思います。
福間: 伊藤洋三郎の立ち位置がまた難しくて、佐野和宏と寺島さんと趣里ちゃんはそれぞれの個性を発揮してくれればよかったんだけど、彼には普通の人でいて下さいという要求をしたんですね。役者さんは普通の人でいることが大変みたいなんです。考えたら、宮本をミクが助けるという出会いも実は不思議なんだけどね。役者はそれを楽しんでくれたから。あれを「どうして?」と言われても答えられない(笑)
趣里: 「どこから来たんですか?」と言われても分からないですよね(笑)
福間: 佐野和宏は、劇中の村岡と同じく声が出ないので、筆談機器でのやり取りになるんだけど、これがまた面白くて、いちいち書かなくても分かるんですよね。
趣里: そうなんです。分かりましたよね。
福間: 言葉で説明しあうコミュニケーションじゃなく、自然と分かり合うコミュニケーションを交わしていましたね。
———映画の内容にも通じて興味深いです。この作品は作家と編集者の話であるので、福間監督のパーソナルな部分が出発点になっているようにも感じました。
福間: それも自然と出てきたんだと思うんです。僕の友人だった自殺した小説家の佐藤泰志のことを書いた本(「佐藤泰志 そこに彼はいた」)を出版した後で、この映画に取り掛かったので、村岡が自ら首を絞めるけど、生きて帰ってきてほしいというような個人的な思いを込めているし、村岡と美咲の夫婦喧嘩についても、僕は妻がプロデューサーということもあって映画についてもよく喧嘩するんだけど、それが出ていると思います。でも、台本を読んだ寺島さんは「こんな激しい言い方するの?」って言っていたのに、やってもらったら、台本に書いた以上の喧嘩でしたけど(笑)
———最後に、この映画を観てくれる方々に一言。
福間: 意味や主題ではなく、映画の世界を丸ごと受け取って感じて欲しいですね。感じるきっかけは散りばめてあると思うけど、趣里ちゃんに近い世代の人は、趣里ちゃんをきっかけにして、この映画の中に入ってきて欲しいと思います。
趣里: 観る人によって、受け取り方というのは違うと思うんですけど、それでよくて、この映画に生きている人達の感情や生活や抱えてる悩みって、実際にあるものだと思うんです。それを感じて欲しいし、これを観て何を思って、どう感じるのかに私もすごく興味があります。
監督: 福間健二
2016年10月29日(土)より新宿K’sシネマより全国順次ロードショー
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