(撮影: 轟あずさ / 構成: 川端哲生)
■映画に関わる、演劇に関わる
松居: 対談したい相手を聞かれて、横浜さんの名前をまず挙げて。単純に僕はファンなので。『りんごのうかの少女』(2013年)も劇場で観ました。
横浜: ありがとうございます。『おばあちゃん女の子』(2010年)の上映も観に来て頂きましたよね。その時、なんていい人なんだろうと思って。『私たちのハァハァ』(2015年)拝見しました。面白かったです。
松居: いや、僕の話はいいんです(笑) この対談のために『俳優 亀岡拓次』も試写で観させて頂いて、横浜さんはオリジナル脚本で撮る人だと思っていたからそこは意外でした。
横浜: オリジナルでは、なかなか撮らせてもらえないですから、今。長編は6、7年撮っていなかったので、脚本は何本か書いたんですけど、それは撮れずに眠ったままで。
松居: 勿体ないですね。
横浜: 松居さんは、若者のハートを捉える映画を作られてるじゃないですか。いわゆるノスタルジックな若者ではなくて、「今」の時代の若者。私達の世代でそういう若者の心を搔っさらっていった監督に岩井俊二さんがいて、映画というジャンルだけではなく、映画から広がる潮流みたいなものを作った方だと思うんです。でも、今は映画が文化の中心にくるのって難しい。でも松居さんはそこを映画でやろうとしていて、頭が下がるんですけど、それはどういった感覚なんだろうって思う。私は映画以外の文化に疎いというか、むしろ時代に乗っかるもんかって、どうしようもない意固地な部分もあって(笑)
松居: 僕の場合は商業映画の『アフロ田中』で監督デビューしたから、それに近い企画をやりましょうみたいな提案に流されて、本当に自分のやりたいことは何だろうって悩んでたんです。PFFとかCO2にも出したけど、全部駄目で。自主映画がうまくいかないのに映像仕事は増えて、職業作家みたいになりそうで足掻いて、自分から好きなバンドにアプローチして撮ったMVから発展して短編映画に繋がっていったんです。それをきっかけに、女性という存在を描くことに何かの核が見えてきて。自分に出来ることがやり尽くされ過ぎていて、若者くらいしか無かったのもありますけど。
横浜: 確かにやり尽くされてますよね。一周してまた古いことをやるか、ホン・サンスのように自分で発明して映画を撮ってるような人じゃないと新しいことはもうやれないところがあって。松居さんは自主映画から始まってないということがまず衝撃的ですね。元々は、演劇ですもんね。演劇と映画の違いはやっぱりありますか?
松居: 持論ですけど、演劇をやる人が映画をやると、どうしても演劇を愛してるから、演劇の方法論を映画に持ち込んで、うまくいかないことがあるような気がしていて。僕は演劇がそんなに好きではないというと語弊がありますけど、演劇は演劇、映画は映画って、割り切ってやっているところがあるんです。横浜さんの映画は、演劇人が撮るより演劇的なところがあって、それが凄いなって。『俳優 亀岡拓次』のオーディションのシーンもそうで、あれは演劇人にはたぶん出来ない。演劇人がやったらもっと貧乏臭くなる。
横浜: 3年前に松居さん演出の『リリオム』を観に行ったんです。
松居: え、マジですか!それは一般でチケットを買ってですか?
横浜: はい。その時はお会いして既に面識はあったんですけど、こんな若くして、すげーなって。演劇から始めた方っていうことをまだちゃんと知らなかったので、映画も撮ってて、演劇もやってて、どんな人なんだろうって思っていたんです。演劇を始めたのは大学時代なんですか?
松居: そうですね。当初から視覚的に世界を作りたいっていう気持ちはあったんですけど、映画って難しそうで、演劇なら人が集まったらその場で出来るって考えで。でも実は『リリオム』は演劇を一度辞めるきっかけの作品だったんです。あの作品は気持ちを言葉に出来ないってことが主題でやっていたんですけど、稽古場で面白さの説明を求められて、十分の一も伝えられなくて。言えば言うほど、自分の思う逆の方向に作品が向かってしまって。
横浜: 怖いです。私には出来ない。
松居: そういう関係性の構築みたいなものに生産性が無いと思って辛くなってしまって。だから、自分のイメージを高めて、そこへ導くみたいなやり方ではなくて、どうなってもいいやと開き直って、劇団規模の小さい箱で自由に作るっていう方法で演劇はやっていくことにしたんです。でも、僕は、人と一緒にものを作ることで救われるというか、それがないと人と話すことがなくて。人見知りなので、飲み会とかも何を話していいか分からない(笑)
横浜: 意外です。常に周りに人がいる人だと思ってました。
松居: 演劇では、ヨーロッパ企画と仲良くさせてもらってるくらいで。映像とか映画監督周りだと全然いない…横の繋がりも縦の繋がりも。
横浜: 私もいないんですよ、映画監督の友達。知り合いはいますけど、友達となると…。お世話になってる方はいますけど、深いつきあいは出来ない。スタッフは自主映画時代の仲間で今も一緒にやってますけど、監督同士では難しいですね。お互いの作品をいいと思っていないとしたら、深い話は出来ない気がします。
■影響について
横浜: いま映画の批判をSNSなどですると、顰蹙を買うじゃないですか。迂闊に発言できない風潮があって、それが嫌だなって思うんです。ちなみに自分の作品の評価は気にしますか?
松居: SNSでエゴサーチしたり、ユーザーレビューもたまに見ますけど、大体落ち込みますね(笑) でも、瞬間的に褒められたり、貶されたりってあんまり関係ないって言い聞かせてます。5年後、10年後にも残ってる映画になったらいいなって。
横浜: でも評価は見ちゃうんですよね、分かります。私の映画は星取表で、☆マークが1つも付いてない時もあるので(笑) 読むと、意味が分からないって書いてある。『ウルトラミラクルラブストーリー』の公開時はそういうのが激しかった気がします。
松居: 僕の人生ベスト3に入る映画ですね。
横浜: それにはまだ早いです(笑) まだまだですから。あの作品は初めての商業映画で、右も左も分からなくて、例えばよく言及される長回しのワンカットのシーンの背景で花火を打ち上げるというアイデアも照明の藤井さんの発案だったりして。スタッフに引っ張られて作り上げた感じだったんです。でも、松居さんの映画はあまりスタッフの匂いを感じないですよね。
松居: いや、僕も相当スタッフに助けられて作ってると思います。
横浜: 誰に助けられてますか?
松居: 主にカメラマンとか。そう見えないのは、きっと同じ方を向いてるせいかもしれないです。誰か1人が「こういうのやりたいんだけど、どうしたらいいか分からない」って言ったら、みんながそれぞれの技術でそこに向かっていくから。カメラマンの塩谷は『男子高校生の日常』からずっと一緒なんです。僕と3歳違いで、あれが初映画だったんですけど。相米と篠田みたいな関係になろうと(笑)
横浜: でも『男子高校生の日常』と『私たちのハァハァ』は全く違うことをやってますよね。
松居: そうですね。
横浜: 引きの画が多いですよね。『男子高校生の日常』で、女子高生が奥から挨拶に来るバックショットがいいなって。
松居: 嬉しいです。
横浜: 若い監督さんって、手持ちカメラを多用して人に寄りがちというか、あまり引かないじゃないですか。あの映画では、ずっと引いてるから珍しいと思って。そこに何か理由はあったんですか?
松居: 恥ずかしくなっちゃうんです。あの時も、プロデューサーには「ここは恋に落ちる瞬間だから、切り返しは撮らないんですか?」って言われて。でも、撮ったら編集の時に入れさせられそうで嫌だなって気持ちが働いて、現場で寄りを撮りませんでした。
横浜: あれいいですよね。顔が見えないのは。
松居: ありがとうございます。横浜さんは、直接的に影響を受けたと思う映画監督っているんですか?
横浜: 真似しようと思っても出来ないんですよ。侯孝賢が好きで、侯孝賢のあのシーンみたいに撮りたいって思うんだけど、出来ない。技術が足りないから。今年の東京国際映画祭で観た中国の映画で、侯孝賢そのままにみえる映画があったんです。先人を踏襲しようとする熱意と、それが出来る技術力はすごいなって。最終的に、自分の能力次第になってしまうんですよね。
松居: 僕は、『リンダリンダリンダ』を観て、最後の体育館ライブのカットバックで誰もいない教室や廊下が映し出されて、いいシーンだなって思いつつ、いやでも、この体育館にさえ行けない奴がもしいたらどうなんだろうって思って。『男子高校生の日常』で全く同じ状況で、でも教室の隅っこに3人が居るってのを敢えてやりました。誰も気付かないアンサーですけど(笑)
横浜: そうだったんですね(笑) ちゃんと自分のフィルターで構築し直すんですね。松居さんの映画は、山下監督以降の作家に代表されるような童貞男子の深みには陥ってない客観的な視点がある。すごく冷静なんだなって思いますね。松居さんの世代で言うと、美学校の後輩にあたる三宅唄監督はかなり戦略的な人で、彼の『COCKPIT』っていうドキュメンタリーは、六畳一間の広さの部屋に正面と横からカメラを置いて、曲を作ってる様子を撮っていて、限られたフレームなのに、色んなものが映っている。三宅君の映画は観ていないですか?
松居: 世代が近い人の映画はあまり観れないんです。面白くてもいい気持ちがしないので(笑)
横浜: その気持ちは分かります(笑) 年齢的には下なんですけど、石井裕也監督は私と同じ年にCO2の助成で撮ったんですけど、かなり活躍してて私も悔しさはある(笑) 『舟を編む』のメイキングを私が撮らせて頂いたんですけど。あと私の同い年だと沖田修一監督がいますね。
松居: その世代は冷静に観れます(笑) 『ウルトラミラクルラブストーリー』を観た当時は大学生で、僕は演劇をやってたんですけど、やべえ!と思って、でもその良さを全然言葉に出来なかった。言語化出来ない感情に辿り着いて。それを誰かに伝える事も出来なかったんです。
横浜: 若者の心を動かす事が出来て嬉しいです(笑) 若い人に観てもらうのが1番嬉しくて。そのためだけにやってるようなところもあるんですよ。モチベーションがないと続かないじゃないですか。
松居: でも、そんなに若者向けの映画を作ってるわけじゃないですよね。
横浜: そうですね(笑) 直接的な表現が出来ないんです。若者が好きな音楽を取り入れたりとか。『俳優 亀岡拓次』については、原作がいぶし銀というか、戊井さんの書く小説が昭和の空気なので、それを私なりにアレンジした結果、ああいう映画になったんですけど、確かに大人向けの映画かもしれない。
■手持ちカメラと劇用カメラの視点〜『私たちのハァハァ』
松居: 横浜さんは作る時に、テーマ的なものと、ルック的なものではどちらを優先させますか?
横浜: テーマも考えますけど、まず画で見せたいなって思います。『俳優 亀岡拓次』であれば、さっき話に出たオーディションのシーンは、原作では外人監督と亀岡がホテルの一室で対面して喋ってるだけだったんですけど、「対面」からヒントを得て大幅に膨らませました。完全に画からですね。見ての通り、あれは日活のスタジオで撮っていて、日活のシャッターを使って何をやるかって着想で、カメラマンと助監督とで考えて。予算が限られているので、やれることも必然的に絞られていく。まず最初に場所を決めてから、そこで何が出来るか考えるっていう連続でしたね。だから、当初頭に浮かんでた画と違うものになるけど、それが楽しい。松居さんは、先に予算の提示があって、その中で何が出来るかって考えていくんですか?
松居: 基本はそうですね。プロットはあるんですけど。でも、最近撮影を終えたばかりの『アズミ・ハルコは行方不明』は予算が上がったことより、撮影期間が2週間ちょっと貰えたことが何より嬉しかったです。
横浜: 絶対にお金を与えた方がいいですよね、松居さんに。方法論がないと出来ないじゃないですか、限られた予算と時間で撮るのって。その方法論が松居さんの中にきっと既にあるんでしょうね。『私たちのハァハァ』は、キャストが手持ちカメラで撮ってる設定ですよね。
松居: あれも工夫で、いろんな説明をとにかく排除しないと撮り切れないよねって話になって、手持ちカメラって設定にしたら、役者も減らせるし、現場スタッフも減らせるという理由で。手持ちカメラで始まって、気付いたらそのカメラはぶっ壊れて劇映画になってるってことにしたんです。
横浜: あれはカメラが壊れた設定なんですね。
松居: そうです。壊れる前から、劇用のカメラは使ってるんですけど。
横浜: そうですよね。自転車で走るところで、劇用カメラになるじゃないですか。手持ちカメラと劇用カメラはどういう使い分けだったんですか?
松居: 北九州ではビデオカメラで、神戸からは劇用カメラって決めてたんですけど、北九州から神戸間は決めきれなくて、両方撮ってるんです。
横浜: 手持ちと劇用が混在した編集ですよね、最後まで。
松居: 神戸以降でも、ここは手持ちカメラで出来るよねって時だけは、とりあえずビデオを役者に回してもらってました。この前、カンパニー松尾さんと上映後のトークショーで話した時に、ドキュメンタリーを撮ってる人だからこそ、リアルっぽい方法論を用いて物語を作るなら、究極に物語的にして欲しかったと。でも、松江(哲明)さんは逆にそれが良かったらしくて。2人は意見が割れることが多くて、前作の『ワンダフルワールドエンド』の評価は逆でした(笑)
横浜: いいですね(笑) 劇用カメラになった時に、鮮明な映像になるじゃないですか。確かに気になったと言えば気になりました。手持ちのカメラのまま引っ張って見せることが出来た映画のような気もするから、劇用カメラに切り替わった時にこれは誰の視点なんだろうとは思いました。でも途中から、女子高生の方に気持ちが乗れたので、全く気にならなくなったんですけど。でもそうやって別のフレームをちゃんと用意するのが松居監督らしさですよね。
松居: 4人をちゃんと見せたいってのがあったんですけど、そうは言っても編集して彼女達が撮ってるカメラの顔の方が可愛かったりもして。プロがいくら技術を駆使して綺麗に撮ろうとしても、好きな人が好きな人を撮ってる方が綺麗にみえるなって。そっちを優先したんです。
横浜: 大関れいかさんが格段に面白いですよね。リアクションとかもすごく人のことを見てるって感じる。あれはアドリブが多いんですか?
松居: 台本通りですけど、台詞の間に相槌を入れてたりするから自然な雰囲気になってますね。大関が話を引っ張ってる感じは本人の意識の開き方のおかげだと思いますね。でも彼女は水泳のコーチになるのが夢らしく、Vineは飽きるまではやるって言ってました。
横浜: 大関さんのVineも面白いですよね。さすが「今」を感じて取り入れるのが早い。
■言葉にならないものを演出する
松居: 横浜さんの映画の印象は、媚が全く無いことで。
横浜: 恥ずかしいんですよね。直球で人の気持ちに寄り添ったりするのが。例えば、男と女の恋愛とか恥ずかしくて。あと、映画を観てて、悩んでる人が出てくると嫌になっちゃうんです。だから違う角度からみたら笑えるところを探します。哀しい映画とか自分で作るのは嫌なんですよ。戊井さんの小説は、絶望の暗闇にギリギリに落ちずに生きてる一般的にみたら社会の端っこにいる人達をユーモアを交えて明るく描いてるところに共感できたんです。やっぱり照れもあって、ふざけちゃうんですよね。『私たちのハァハァ』の終盤で、女子高生達が喧嘩をするシーンあるじゃないですか。ああいうのいいなって、心に染みましたね。Twitterが喧嘩の発端になってましたけど、今の子達は、こうやって喧嘩をするのかって。
松居: ああいう台本だったとしたら、喧嘩のシーンは外したくなりますか?
横浜: たぶん、外しちゃうんだろうなって。何か違うやり方で、またふざけちゃうんだろうなって(笑)
松居: お芝居をつける時に、中には入り込まないタイプですか?
横浜: 『りんごのうかの少女』の時は、演技経験がゼロに近い中学生が主人公だったので、鬼気迫る状況で泣くシーンがあって、そこでうまく泣けなくて、やべえって思って、監督としてこの子をどうしたら追い込めるのかって状況を初めて経験して。結局は本人が泣けるのを待つしかなかったんですけど。役者さんを追い込む方法論が分からなくて。松居さんはどうやっていますか?
松居: 『私たちのハァハァ』は基本的に順撮りで、4人の喧嘩のシーンは旅の最後の方だったから、4人も役の感じを掴んできて、あのシーンをやるのが嫌だって言ってたんです。仲良くなってたから役と切り離せなくなっていて、リハでは、声を荒げて喧嘩してるように見える喧嘩になってしまってたんです。
横浜: それに対して、監督としてどういうアクションをしたんですか?
松居: 傷つけ合うためじゃなくて、相手を思い遣るが故に口論になってるから、相手じゃなく自分を傷つけながら言ってほしいって言いました。
横浜: 気持ちの流れをちゃんと説明するんですね。基本的に私は、何故こういう動きをするのかって説明を省くんですよ。そうすると役者さんの中には、気持ちが分からないのに動けないということもあって。今回も、亀岡拓次がバイクに乗りながら指をさすシーンがあって、それも安田顕さんご本人は、何で指をさすんだろうってもしかしたら疑問に思ってたかもしれないんですけど、突き詰めるとそこに理由はなくて。その方が見てて面白いからというだけなんです。
松居: 僕がその横浜さんの状況だとするなら、言葉にならない感情みたいなものに辿り着きたいっていう時に理由がないから、言葉にできない。役者のことを思うと言葉にすべきなんだけど、言葉にするとチープになって壊れてしまいそうな気がします。
横浜: 役者の心を傷つけずに、うまく適切な言葉でやってもらうのがいい監督なんだろうとは思うんです。私はそこがまだまだ出来ないなと思います。
松居: でも役者さんにもよりますよね。本当に演技初心者なら、一生懸命やると思うし。逆に付き合いの長い俳優は、何も言わないほど、勝手にうまくやってくれたりする。だけど経験のある役者の方で、初めましての場合はちゃんと理由を説明しなきゃいけなくて、難しいですよね。新作でご一緒した蒼井優さんはスタッフ発想の人でした。映画の中の俳優部として、全スタッフの名前をまず覚えるような。ある長回しシーンの感情的な芝居で、違うなって思ってカットをかけて、それに対して言葉足らずな説明しか出来なかったんですけど、次のテイクで、感情を抑えてるんだけど狂気を感じる芝居をしてくれて。圧巻でした。松山(ケンイチ)さんは、どうだったんですか?
横浜: 松山さんが演じた陽人って役は人間離れした人間なので(笑) 説明しようがない動きに対しては途中からは、「考えるの止めました」って言ってくれて、そこから松山さんから出てくるものに乗っかった感じですね。それが監督としていいのか分からないですけどね。言葉遣いでいうと、私はオール津軽弁でしたけど、『私たちのハァハァ』では標準語を喋ってますよね。あれは敢えてそうしたんですよね?
松居: 4人が北九州出身じゃないこともあったんですけど、方言の台本を読ませたら、方言を喋ろうとしてる芝居にしかならなくて。もうそれなら本人達の喋りやすい言葉で雰囲気を出す方が大事だなって思い直して。
横浜: そこの潔さが凄いですよね。『ウルトラミラクルラブストーリー』のプロデューサーからは何言ってるか全然分からないって散々言われました(笑)
松居: 何言ってるか分からなくてもいいんだって思わせてくれた映画でした。それでも確かなものがある。でも僕はそれを自分の映画でやる勇気がなかった。
横浜: いえ、ちゃんと伝わってきました。
■撮り続ける意義と今後
松居: 横浜さんはこれからの展望とかあるんですか?
横浜: 明日がどうなるか分からないですからね。
松居: 変な意味ではなく、売れるより自分の表現を追究していくのかなって傍目には感じます。
横浜: 真剣に考えたことはないですけど、その狭間ですね。映画だけじゃ生きていけないのも事実としてはあって。松居さんは役者としてもいろいろ出演されてますよね。演劇の演出家の方は皆さんタレント性がありますよね。
松居: 呼ばれたら嬉しいし、人の現場も見たいので。横浜さんの現場にもし役者で呼ばれたら、絶対に行きます(笑) 演劇の演出に興味はないんですか?
横浜: 興味はありますけど、まだ真剣に考えたことないです。映画もまだまだって気持ちが強いので。また別の頭を使わなきゃいけないじゃないですか。1つのことしか出来ないんです。周囲からの評価ではなくて、自分自身の考える映画に対しての問題をクリア出来ない限りはきっと難しい。今、『俳優 亀岡拓次』が東京国際映画祭の「アジアの未来」部門に出品してて、同じ部門のトルコ、韓国、中国、台湾とかの出品作品を観てると、方向性が全然違って面白くて。エンタメ路線もあれば、自主制作っぽいものもある。でもどれも直球勝負なんですよね。私のような変化球は少ない(笑) 同じ世代の他の国の若い作家の映画を観ると、背負ってるものの違いを感じます。ストイックにやってる。そういう作品を観て、自分はまだやるべきことが沢山あるなって痛感します。
松居: キム・ギドクとかは短期間の撮影で本当にやりたいことだけをやって、潔くていいなって思います。
横浜: キム・ギドクは、最近の作品は観れてないんですけど、自分の映画の作り方みたいなものを発明してますよね。自分にしか出来ないやり方を見つけたいですね。ホン・サンスみたいに当日シナリオを渡すっていうやり方でも作れるわけじゃないですか。今の日本の状況ではそれは許されないですけど。でも、『私たちのハァハァ』はそれに近いやり方ですよね。
松居: そうかもしれないですね。俳優とスタッフの境界線がなかったから出来たところもあります。みんなでマイクロバスで寝ながら移動して、顔がドロドロになってるのを良しとするみたいな。
横浜: それを良しとする判断は監督じゃないですか。それが凄いなって。
松居: あの映画は4人が集まった時点で、僕の映画というよりこの4人の映画にしようって思って。マイクロバスでの移動についても、4人はそれが普通で、そういうものなんだって思ってる。他の現場を知らないから(笑)
横浜: 今後はたぶん予算が大きいところへいくわけですよね?
松居: 馬鹿にされたとしても、大きいところでやるっていう青写真はなんとなくはあります。予算規模は最初の『アフロ田中』が1番でしたけど、商業ベースで作らないと考え方がどんどん狭くなってしまいそうで。ドラマで誰かの演出をベースに撮るとかは少し葛藤がありますが…。
横浜: 私なら受けちゃいます。話がきたら何でもやるモードですね。でも来ないんだよなぁ。この7年来なかったですから(笑)
松居: そんなこと言うと仕事の話来ると思いますよ。横浜さんは興味がないから受けてくれないと思われてるだけだと思うので(笑)いずれ商業規模でオリジナル作品をやりたい気持ちは漠然とあって、それまで頑張りたいです。
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