(撮影: 朝岡英輔 / 取材・文: 川端哲生)
———岡野さんは市川監督の映画は、「MOOSIC LAB 2014」に参加した『恋文X』に続いて、2度目ですが、久しぶりの現場はいかがでしたか?
岡野: 舞台挨拶などでお会いしていたので、特に久しぶりという感じはなかったんですけど、『恋文X』の時は、市川監督の世界観に如何に私が存在するかっていう感じだったし、『恋文X』で演じたルリ子は、ルンルンって感じのヒロインみたいな女の子を要求されていたんです。でも今回はもっと密に、私はこうしたいっていう意思を私なりに提示していきました。
———2度目の現場だったからこそかもしれないですね。
岡野: それはあったと思います。何でもとにかく聞いて、相談してました。
———成田さんと渡辺さんは、市川監督とは初めてだったと思いますが、いかがでした?
成田: それこそ本当に岡野さんとの信頼関係を感じました。1度、監督とスタッフで議論になったことがあったんですよ。トラックが走ってくるシーンで、もう一度、撮り直すかどうかっていう話になって、監督は撮り直さないって。そしたら岡野さんが「監督が言ってるんだからいいんじゃない」って。
———車道側を歩いているコトリを江波が守ってあげるシーンですよね。
岡野: え?でも、そのシーン撮ったよ。
成田: 撮ったっけ!?(笑)
———齟齬があったみたいですね(笑) 渡辺さんはいかがでした?
渡辺: 初めて会った時からお互いシンパシーを感じるというか、近しい存在だったというか。
成田: いや、お互いにあんまり喋らなかっただけでしょ。
渡辺: (笑)
———市川監督は現場では寡黙な方なんですか?
岡野: なかなか目を見てくれないんです。でも、自分のスイッチが入った時のキラキラした感じはある方です。本人が面白いと思っている感情は分かりやすい方ですね。
成田: 何気に一歩引いて見てたんだね。
———この映画の見どころの1つとして、チャラン・ポ・ランタンとのコラボがあると思いますけど、ももさん、小春さん共に出演もしていますが、2人はミュージシャンなのに、お芝居が自然でした。
岡野: 素晴らしかったですよ。
成田: 僕は、小春さんと若干絡んだだけですけど、上手ですよね。
岡野: 普段、ライブでも自分達の世界観をパフォーマンスしてる方々なので、きっとお芝居もうまいんだと思います。表現力があるって思うので。
成田: 本人達も言ってたよね。普段から嘘を演じてるみたいなことをしてるからって。
———渡辺さんは、ももさん演じるOLに想いを寄せられる役でしたが。
渡辺: 元々、チャランポさんのファンなので役得でした。
岡野: ずっと「ももちゃん可愛い」って言ってたんですよ。それが役の上で実現したんですよね(笑) すごく嬉しそうでした。
———新社会人が揉まれていく話ですが、登場人物達の悩みには共感できましたか?
岡野: 出来ましたね。コトリは、宙ぶらりんのままでいいかなって思ってる女の子だったと思うんですよ。役者だったりこのお仕事って、そんなにコンスタントに続くか分からないと思うので、気持ちがいいけどそれでいいのかなっていう不安感というのは、多少は違いがあるのかもしれないですけど、理解が出来ましたね。
成田: 江波はそんなに自分からかけ離れてる人間ではなかったので、これは無いわっていうようなことはなかったです。終盤に向けて、僕とはかけ離れていきましたけど。女性への最初の関わり方はそんなに変わらなかったです。
岡野: 女性への(笑)
渡辺: 僕も共感できましたね。どんな仕事をやっていても、仕事であることに変わりはないので。それぞれに悩みとかはあるだろうし。
———劇中では、納豆を執拗に食べている役でしたが。
渡辺: 納豆はあんまり好きじゃなかったし、カップラーメンに入れて食べるって、あれ本当に不味いんですよ。味噌味のラーメンだったら良かったかも。
岡野: 私は納豆は好きなんです。でも渡辺君には悪いんですけど、納豆ラーメンの撮影の時は匂いがきつ過ぎて途中で退出させて頂きました(笑) 本当にこれは駄目だろうっていう匂いがしていたので。
成田: そこは感情移入できたね(笑)
———さっきも少し話にでたコトリと江波の関係が近くなってからを切り取ったコラージュは本当に仲が良さそうですよね。撮影で気にかけたことはありましたか?
成田: 求められるのは初々しさでしたからね。
岡野: 今までお仕事で一緒にはならなくて、打ち合わせで初めましてという感じだったので、そのままの初々しさだったと思いますね。やること自体は脚本に書かれていましたけど、2人で「ああしたいね、こうしたいね」って話し合っていて気付いたら、それがカメラに収まってた感じですね。
成田: 「ここはどうやって手を繋げばいいかな?」って話し合ってるところが、そのまま写ってるだけですから(笑)
岡野: そうなんです(笑)
渡辺: 僕の知らないところでね。僕は、その現場にいなかったですから。
———コトリは恋に依存するタイプでしたけど、逆に江波は自由を求めるようなタイプに見えました。それぞれの恋への向かい方についてどう思いますか?
岡野: 監督とお話した時に、「コトリはこの恋が本当に初めてなんだ」っておっしゃっていて。初めての燃え上がるような恋なら、ああなる気持ちは分かりますよね。
成田: 学生の頃にする初恋と、社会人になっての初恋は強烈な差がある気がします。
岡野: そうなの?(笑) 分からないですけど。
———詳しく聞かせて頂いてもいいですか?(笑)
成田: 話としては今ので終わりなんですが(笑) いや、遅めの恋のスタートだと斜めから見るというか、引きで見たりすると思うので、江波君みたいなタイプにガーっと来られたりしたから、なるほど、なるほど、って思います。
岡野: どういうこと?成田君として、コトリを見たらってこと?
成田: そう、僕がです。コトリは拗らせてるから、江波君からしたらそれを受け入れなきゃいけないわけで。受け入れようとしながら、これが欲しいって思った時に貰えないと、あぁってなりますよね。あれ?何の話してるんだろう(笑)
岡野: えっと、江波君としてはこうして欲しいっていうのがあるのに、コトリは不器用過ぎて、女の子としての振る舞いが若干足りてないわけですよね。
成田: そう、そう。そうです。それで引いちゃったよねっていう。
岡野: 本当はここで甘えてきて欲しいのにっていう江波君の思いとは裏腹に、コトリは仕事のことで頭がいっぱいになっちゃったり、やっぱり本を読むのが楽しくて、江波君を寂しくしてしまったのがよくなかったんですよね(笑)
成田: そうです(笑)
———代弁ありがとうございます(笑) 劇中で、江波がコトリに対して、理想の自分を見てるだけと言い合いになるシーンもありましたね。
岡野: 自分本位なんでしょうね。まだ相手を見るということが理解しきれてないところが彼女の中にはあるんだなって思います。
———2人はうまくいかず別の道へ向かっていくわけですけど、岡野さん自身はどういうタイプの男性に惹かれますか? 例えば、成田さんが演じた江波と、渡辺さんが演じたのぼるで比較するとしたら。
岡野: 江波君っていう男性のタイプをカテゴライズ出来ないです。撮影中にはコトリとして江波君という対象を、ただカッコいい初恋の人っていう目線で見ていたので、冷静に引いた時に、江波君がどういうタイプか分けられないんです。それは、役としての対話がしっかり出来ていたから、脚本に書かれたコトリの通り、私も理解しきれないままなんだと思います。
———役に入り込んでいたので、江波と相成れないままの状態ってことですね。
岡野: はい。私の江波君の印象はそのままです。ただ江波君からの視点で脚本を読めば、また変わっていくと思うんですけど。のぼるに関しては、コトリをサラッと支えてくれましたけど、その優しさに気付けてないんですよ。豆大福をくれる時にも気付けてないですし、ちょっとしたことを報告してくれる気持ちとかも全然分かってあげられてない。
———この取材中も渡辺さんが優しく見守ってる感じありますね。もっと言うと基本的に、成田さんと渡辺さんが、岡野さんを見守ってますよね。
岡野: (2人に)ありがとうございます。
渡辺: のぼる君はピュアでいい奴です。
岡野: のぼる君とコトリは、恋に発展するかは分からないですけど、仕事上のパートナーとしては信頼しきった仲ではありますね。江波君と企画した絵本をのぼる君と完成させるというのはコトリにとってはきっとすごいことなので、一緒に笑顔で完成させることが出来たのぼる君には感謝してると思います。
渡辺: 嬉しいですね…。
———映画を観ていて、現代の若者の等身大の幸せについて考えました。趣味や関心が多様化してるから、感じ方も違うはずで。映画から離れた質問かもしれないですけど、幸せについてどう思いますか?
成田: この間、海外に行く仕事があって、色々パソコンやスマートフォンで、その国の事を調べてたんですけど、それだけで大袈裟に言えば、その国に行った気分を味わえるし知ったつもりができてしまう。もちろん、その国に自ら行くことで全然感じる事は違いますけど。ただ家にいても様々な情報を見れたり、聞けたり、物を買えたり、する事はとても幸せな事だなと。実際に見たり触れたり行動する事で感じる事が一番だとは思いますけど。
岡野: 私の脳内に書き留めている言葉に、希望の材料が多い時代は失望の材料が多い時代っていうのがあって。確かにそうだなって思ったんですよ。
成田: 分かる!
岡野: (笑) 今は、あれになりたい、これになりたいって希望が色々あるじゃないですか。でも、これは出来ないかもしれない、あれは出来ないかもしれないっていう同等の失望があるって思うんです。昔は身分制度があるから、兵士なら兵士の幸せ、農民なら農民の幸せってハッキリしてたと思うので。そういう希望と失望が同等にある時代に、自分が好きなものの範囲をしっかり把握した中で楽しむ事が一番の幸せだと私は思います。それを見極めて行く過程こそがきっと幸せなんじゃないかと思いますね。
渡辺: さすが。僕も人と話していて思ったんですけど、夢とか目標を持ってそれを叶えようと頑張ったり、結果的に叶ったりとかもありますけど、例えば、結婚して家庭を作ってっていうありふれた幸せもあると思うし、単純に僕らがこうして生活してる中で、食べたい時にご飯を食べられて、何も心配せずに寝てっていうこと自体が実はすごく幸せなんだなって感じるんです。日々の中では感じにくい部分ではあるんですけど、それを感じられないとたぶん僕は生きていけない気がして。
成田: 毎日幸せなの?(笑)
渡辺: そう思わないと、やっぱりさ。
———江波やコトリにとっての幸せは何だったんだと思いますか?
成田: いい感じの仕事が出来ればいいかなくらいに思ってたんだと思います。難しいところですよね。何を選ぶとかもなくって感じで、江波君もまだ若いので。
———役作りについて、監督とどのようなディスカッションがありましたか?
成田: 一般的な寡黙な人間として演じたんですけど、リアルから離れちゃうかなって、こんな奴いないだろってことにはならないように。監督には僕からはあまり話さなかったし、でも主観にならないようにはしました。
岡野: 監督と話してた時に、「岡野さんの怠く話してる感じがいい」と言われて。素のフラットな私が良かったみたいで。でも役者ってそこは怖くて。だからそこへの挑戦でもありました。
———なるべく素の自分でいようとした現場だったんですね。
岡野: もちろんコトリっていう人間は若干私と違ったので、そこはもちろん演じているわけですけど、表現として私を通す時に、私の要素をくっ付けていきたいなと思ったんです。そうした方が魅力的な子になるのかなって思ったので。それが思いのほか怖かったのはありました。意外と朝イチのリハでやった眠い感じが良かったって監督に言われたりとかしました(笑) 監督は独特で、ワンシーンを皆で考えよう会とかやったんです。撮影中なんですけど、どうしたら面白くなるかスタッフ、キャストの皆が集合して話し合ったりしましたね。
———最後に映画を観て頂ける方に一言ずつ頂いてもいいですか?特にどういう人に届けたいという思いなどもあれば。
成田: 何かを始めようとしてる人に観て欲しいですね。高校や大学に入学したばかりとか、社会人になったばかりとかそういう人に観て欲しいですね。もちろん皆に観て欲しいですけど。
渡辺: コトリちゃんが現実逃避する空想世界のファンタジックな世界観もありつつ、描いてることはすごく日常的で、社会に出て痛い思いをするっていうのは誰しも通ることだと思うので、同世代に観てもらって痛みを共感してもらえたらとても有り難いことですし、大人に観てもらって昔こんなこともあったねって思ってもらってもいいし、幅広い方に観てもらえたら嬉しいです。
岡野: チラシ等のビジュアルはポップな感じですけど、描かれてることは普通の女の子の小さな一歩の話なので、その一歩を見届けて欲しいですね。小さな幸せを見つけるように。観終わった後に、過去を振り返って、今まで経験したほんの小さな一歩を誉め称える機会になればいいなって思います。
監督: 市川悠輔
2015年7月4日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
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