『ローリング』 冨永昌敬監督 & 柳英里紗 インタビュー

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  • 2015.06.10

『ローリング』 冨永昌敬監督 & 柳英里紗 インタビュー

『パビリオン山椒魚』で長編デビュー以来、抜群の映像センスでオリジナリティある作品を発表し続ける冨永昌敬監督の最新作『ローリング』が、6月13日(土)より全国順次公開される。おしぼり業者で働く貫一(三浦貴大)が、10年前に起こした盗撮事件で地元を追われていた元高校教師・権藤(川瀬陽太)と再会。権藤が東京から連れ帰ってきた女、みはり(柳英里紗)に、一目惚れしてしまい、思わぬ騒動が巻き起こっていく緊迫感ある悲喜劇。冨永監督が2002年にセンセーショナルな短編『ビクーニャ』でグランプリを受賞した水戸短編映像祭開催の地、茨城県水戸市で全編ロケが敢行された本作は既に、監督、作家、批評家筋から賞賛の声があがっている。今回、冨永監督と、コケティッシュなキャバ嬢、みはりを好演している女優、柳英里紗に、2人の邂逅を中心に、映画についてざっくばらんに語ってもらった。

(撮影: 轟あずさ / 取材・文: 川端哲生)

 

 

先生を登場させたいという考えがあって。昨今、教職員の不祥事が多いことがずっと気になってたので、その問題も扱おうと。(冨永)

 

———本作は、水戸を舞台にした短編の構想から長編に発展したそうですが、どのようにして製作に到ったんですか?

 

冨永: 水戸短編映像祭に自分の作品の上映や、または審査委員として呼んでもらっていたご縁もあって、「大工町という飲み屋街を舞台に短編映画を作らないか?」と水戸の実業家の方々から指名された形でした。ご当地映画なのか確認したところ、好きなようにやってくれという話だったので、それならと思って。とはいえ短い作品であれば自主制作で撮れてしまうし、短編は経験上、作ったはいいけど劇場での上映機会が少ないので。それで長編の可能性についての確認をして、予算的な話については東京に一度持ち帰って、今回の木滝プロデューサーに相談して具体化した形ですね。その時点ではまだ台本も書いていなかったんですけど(笑)

 

———原作モノの映画化が多い現状の中、本作は冨永監督のオリジナル脚本ですよね。どういった着想から書き始めたんですか?

 

冨永: 大工町を舞台という前提があったので、街の中で成立するようにまずは考えて、飲み屋街なので、そこで働く男女を考えると、おしぼり配達の男とスナックなんかで働いてる女にすれば、出会いを作れるかなと思ったんです。加えて、先生を登場させたいという考えがあって。昨今、教職員の不祥事が多いことがずっと気になってたので、今回はその問題も扱おうと。

 

———映画を観た際に様々な感情があったんですが、まず最初の印象として、これまでの冨永監督の作品に比べ、とても土臭い映画だなと感じたんです。

 

冨永: 年齢と共に考える事が変わっていったのかもしれないですね(笑)

 

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———みはり役を演じた柳さんは、オーディションを経て、監督の強い要望で決定したとのことですが。

 

冨永: でも撮影の1年前に会ってるんですよね。

 

柳: 会ってました。初めて会ったのが、水戸短編映像祭だったんです。

 

冨永: 撮影の前の年の水戸短編映像祭で、過去のグランプリ受賞者の中野量太監督の『チチを撮りに』が凱旋上映されて、柳さんはそれで来てたんですよね。

 

柳: そうです。私、冨永監督の元々ファンだったので、興奮してて。

 

冨永: 興奮してたんですか(笑)

 

柳: 興奮してましたよ。その映画祭で、冨永監督が撮る新作の公開オーディションをしてたんですよ。あれって『ローリング』だったんですか?

 

冨永: そうです。

 

柳: その時に同行してた人に、私、あれ受けたいって言ったんですけど、「柳は茨城出身じゃないから駄目」って言われて、落胆したのを覚えてます。

 

冨永: あれは台本を書く前で、キャスティングを経験者、未経験者関係なく、水戸の人でやってみようということを考えていたんです。会期中のイベントの1つとしてやったんですけど。

 

柳: 私、客席から監督がオーディションしてるの見てました(笑)

 

冨永: 公開オーディションはやったものの、台本を書きあげた後に、これは演技経験のない人には出来ないかもしれないって思い直して。

 

冨永監督には、なかなか会えなかったんです。こんなに好きな人に会えないことってあるんだって思って、切なくて。(柳)

 

———そうすると、柳さんには改めてオファーした形になるんですか?

 

柳: オーディションはちゃんとしましたね。

 

———柳さんに決めた理由を強いて挙げるならばどこでしたか?

 

冨永: こういう話はしたことないんですけど(笑)

 

柳: 私の前では話しづらいですよね(笑)

 

———そこを是非、お願いします。

 

冨永: 『チチを撮りに』を観て、歯が尖ってる感じがしたんです。

 

柳: えっ、初めて聞きました!(笑)

 

冨永: 実際に尖ってるということではなくて、印象としてですよ。ただ可愛いだけじゃなくて、歯が尖ってるからには何かあると思ったんです。

 

柳: (笑)

 

冨永: たとえば男優さんの印象を聞かれた場合、僕はそういうことを言いませんけど、「殺気がある」なんていう表現があるじゃないですか。「歯が尖ってる」というのはそれと同じです。

 

柳: それで覚えててくださったんですね(笑)

 

———逆に柳さんは、先程、ファンとおっしゃっていましたけど、冨永監督の映画にどういった印象を持っていましたか?

 

柳: 初めて観たのは『パンドラの匣』だったんですけど、仲里依紗ちゃんが死ぬほど可愛くて。小説を読んでいてファンだった川上未映子さんも綺麗で。この監督に撮られる人は幸せだなって思ったんです。あと、先輩の女優さんに「一緒にお仕事したいと思った監督さんの名前は出した方がいいよ」って言われていたので、3年くらい、常に「冨永監督」って答えていて。

 

冨永: そうだったんですね。

 

柳: 冨永監督の世界観にいる人が凄く羨ましくて、杉山彦々さんと共演させて頂いたり、オーディションでも一緒になったことがあって、冨永監督と仕事をしたいって話をしたら、「叶うよ〜」って缶コーヒーを飲みながら言われたんです(笑)

 

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———杉山彦々さんからの紹介があったわけでは特になかったんですよね。

 

柳: はい、違うんです。会わせてくれるかなって期待は少しありましたけど、そういうことは全然なくて(笑) でも、その時に彦々さんに言われたことが今回、本当に叶ったんです。

 

冨永: 杉山の予言が的中したみたいでなんか嫌だな。すいません。

 

柳: (笑) あと当時、私は『ダンガンロンパ』っていうゲームが好きだったんです。それもあって、彦々さんと共演した時に、『ダンガンロンパ』の傘を指していたら、「何?ダンガンロンパ好きなの?そのゲームのシナリオ書いてるのは冨永と一緒に映画撮ったりしてた奴だよ」って言われたんです。そこで、勝手に運命感じたりしてました(笑)

 

冨永: そっか(笑) ゲームライターの小高和剛という男がいて、大学の後輩なんですけど、小高と柳さんがTwitter上で会話してるのを、どうして仲がいいんだろうと思って見てました。

 

柳: 『ダンガンロンパ』に関するツイートを私がしたら、小高さんがそれに気付いてくださって、冨永監督より先に小高さんと知り合ったんです。

 

———外から攻めていっている感があったんですね(笑)

 

柳: そうなんです。冨永監督には、なかなか会えなかったんです。しかも、『ローリング』のオーディションの日に私の携帯電話が故障して、会場への行き方が分からなくなってしまって、30分遅刻して、泣き顔で行ったんです。こんなに好きな人に会えないことってあるんだって思って、切なくて。

 

冨永: オーディションでお芝居をしてもらったことも過去にあるんですけど、それ見ても僕はあんまり分からないんですよ。本当は会話もしたくないんです。俳優さんが誰かとおしゃべりしてるのを見てるぐらいちょうどいいんです。とにかく、どんな人なのかを見たいだけです。だから遅刻して、すごく慌てて来てくれたので、あのとき柳さんのある一面を見られたのは不幸中の幸いでした。

 

柳: 冨永さんで良かったって思います。30分も遅刻したら、「何だこいつ!」ってことに普通はなるから、私はもう駄目だって覚悟してました。

 

冨永: わざとじゃないもんね。

 

柳: ありえないです。そんなことはとても出来ないです。

 

日本の映画のラブシーンの多くは悲しみを纏ってる、でもこれから撮るシーンは楽しそうにお喋りをして下さいと。(冨永)

 

———色々な巡り合わせを経て実現したんですね。貫一役の三浦貴大さんについての印象はいかがでしたか?

 

冨永: 僕、お芝居のことを俳優にあらかじめ言わないんですよ。先に演じてもらって、そこに僕が付け足すんです。それがいいのかどうかは分からないですけど、自然とそうなってるんです。

 

柳: 現場で監督は自然体でした。私は台本読んでる時点で、みはりっていう役を通して、貫一には惚れてたので、ドキドキしながらやっていました。 

 

冨永: 最終日は三浦くんとちょっと喋ったなぁ。ベッドシーンの撮影の前かな。貫一とみはりが、いわば付き合い始める晩なんですけど、といっても大した話はしてなくて、それこそ貫一についての話なんて1つもしてないけど、日本の映画のラブシーンの多くは悲しみを纏ってる、でもこれから撮るシーンは悲しくないので、楽しそうにお喋りをして下さいと。

 

———それは映画全体にも貫かれている気がします。出てくるのは自堕落な人間ばかりなんですけど、その再生を描くとか悲惨さを描くのではなくて、堕ちて行く様を滑稽に描いてる感じがあって。

 

冨永: そうですね。滑稽に見えるかどうかはともかく、本人達が楽しそうに駄目になっていくようにしたかったんです。

 

———率直に思ったことを言う貫一に対して、先生役の権藤は優柔不断で駄目さもありながら、途中から開き直っていく感じがありますよね。

 

冨永: それぞれの性格はあまり関係なくて、大事なのは2人が先生と教え子だったということなんです。それぞれの立場で接してるんです。貫一は先生である権藤の無様なところは見たくないわけで、権藤の方も相手の貫一は教え子だから、なるべく面子を保ったまま新しい関係を築きたかったはずなんですけど、色々あって開き直ってしまった結果、ああいうことになった。だから両者の性格を厳密に正反対にしようとしたわけではないんです。

 

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———逃避行する権藤とみはりが夜の街を駆け抜けていく冒頭はフィルムノワールのような緊迫感がありました。この撮影は順撮りだったんですか?

 

柳: ほぼそうですね。あれは初日でした。歩いた後に3人が会うあのシーンを撮りました。

 

冨永: ああいうのは女性からするとキュンとくるの? 見知らぬ男が怪我したところをサッとおしぼりで拭いてくれるみたいな。

 

柳: 人によると思います(笑) でも貫一は若くてカッコいいから、キュンとはしますよね。ドキドキしました。だって、いきなり知らない人に触れられたら、色んな意味でドキッとするじゃないですか。

 

———みはりを演じながら、実際に恋に近い感情を抱いていたんですか?

 

柳: そうですね。現場では三浦貴大君に挨拶をしてなかったので、あのシーンで初めて会ったんです。都内での衣装合わせでは会っているんですけど、水戸で会ったのは初めてで。三浦君も挨拶をしないようにしてくれたんじゃないかと思います。だから、顔を上げる瞬間に初めて顔を見たので、リアルな感じになってる気はします。

 

———モノローグでも語られる通り、お互いに一目惚れをしてる2人に権藤は気付いてないわけですよね。

 

冨永: 権藤にしたら、それどころじゃないわけです。

 

———みはりの足の怪我は象徴的な描かれ方をします。

 

冨永: 治らないんですよ。「使用済みのおしぼりは、ばい菌の宝庫だからこんなもので拭いちゃ駄目だ」という台詞の通り、ばい菌が傷口に入ったわけですね。怪我については、足の指を切断するという案もありました。腐ってるから外科手術で切断するしかないと診断されるような展開で。

 

柳: 切断してたら、おしぼりが怖いって話になっていたかもしれないですね(笑)

 

台本を開いた時に川瀬さんの名前があった時は安心しました。この人とだったら大丈夫だなって思ったし、楽しかったです。(柳)

 

———東京に出て行くみはりを引き止める権藤の、まるで駄々っ子のような駄目さ加減が本当に面白くて。川瀬さんのお芝居が最高に素晴らしかったです。

 

冨永: 台詞については台本に書いてあった通りなんですけど、それを思ってた通りに川瀬さんが演じてくれたから、僕は特に何も言う必要がなくて済みましたね(笑)

 

柳: 私、川瀬さんとは今回で5回目なんですよ。『アナタの白子に戻り鰹』って作品では、お兄ちゃん役をやって頂いたこともあって、川瀬さんのお芝居の呼吸だったり、人間性も分かってたし、恋愛相談もしたことあったくらいなので(笑) 私は一方的に近しい存在だなって思っていて、台本を開いた時に川瀬さんの名前があった時は安心しました。すごく女性に優しいんですよ。ピンク映画もやられているので、女優を大事にしてくれるっていうか。この人とだったら大丈夫だなって思ったし、楽しかったです。まさか恋人をやるとは思わなかったですけど(笑) 権藤を愛すことが出来たのは、川瀬さんのおかげです。

 

冨永: 僕は川瀬さんとの仕事は初めてだったんですけど、瀬々敬久監督の諸作や、富田克也監督の『サウダーヂ』とか、過去の出演作は観ていましたし、以前から何度かお酒吞む機会もあって、いつか出てくれないかなと考えて時に、川瀬さんが「何かあったら呼んでね」と言ってくれたので。

 

———その川瀬さん演じる権藤による本作のモノローグについて。冨永監督の代名詞の1つであると思うのですが、今作で特に意識された点はありましたか?

 

冨永: モノローグについては、当初は貫一の予定だったんです。教え子が恩師に語りかけるような。でもふと気づいてみたら、僕いま先生やってるんですよ。気持ちはもう先生の方なんです。で、権藤がモノローグを話すことに切り替えてみたら、みるみる自分にフィットしてきたというわけです。

 

———映画にスケール感や、時に不穏さももたらしているように感じる音楽を手掛けられた渡邊琢磨さんの起用の経緯について聞かせて頂けますか?

 

冨永: 琢磨くんとはもう十年以上の付き合いで、僕は彼の映画についてのリテラシーの高さにいつも圧倒されてて、同い年なんだけど、胸を借りたような気持ちもあります。音楽が不穏なムードをもたらしてるのは、どんなバカな物語だろうと、僕が目指しているのがサスペンス映画だからでしょうかね。

 

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———ロケは水戸でしたけど、柳さんは水戸という土地への想いはありますか?

 

柳: 私は東京の女の役だったので、知らない方がいいかなって、敢えて観光したりはしなかったですけど、撮影を終えて、何度か水戸に行った時に、街をちゃんと歩いて、大工町で遊んだりしたいなって思いました。でも撮影してる最中に面白いエピソードがあって、撮影中にお酒を吞んで見学していた方に、「水戸の女じゃない!」って言われたんです。その時、この映画はいけるなって思いました(笑) 自分の街を愛してたり、街の人を把握してないと地元の人間って判断できないから、水戸の人って水戸を本当に愛してるんだなって思って。劇中にもそういう台詞があったので、冨永監督の脚本と合ってるなって思ったりしました。

 

———最後に、この映画を見て頂ける方々に一言いいでしょうか。

 

柳: 私自身の言葉だけで言うなら、みはりが可愛いし、柳英里紗が頑張ったから観て下さいって思いますけど、この映画って何が見どころとかをまとめるのが難しいと思うんです。予告編を観て、色んなこところが気になった人が沢山いると思うんですよね。その気になったことが、分かるので観てほしいです。

 

———ジャンルにとらわれない懐の広さがあって、いい意味で映画としての「得体の知れなさ」がずっと持続していく感じがあるので、最後までワクワクしながら観ることが出来ました。

 

柳: そうですね。言葉にするのが難しいって思うので、すべて空っぽにして、観て体感してもらえたらいいなって思いました。

 

 

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【柳英里紗 衣装協力】
スタイリスト: 博多屋あい / ヘアメイク: 篠原奈緒
ブラウス ¥21,000・スカート ¥19,000 (共にLois CRAYON)
カクカクバングル ¥15,000・ねじれバングル ¥10,000・リング(人差し指)¥12,000 (すべてete)
リング(薬指)・イヤリング (本人私物)
<全て税抜き価格>
問合せ先: ete 0120−10−6616 / Lois CRAYON 0120−134434

作品情報 『ローリング』

 

 

監督・脚本: 冨永昌敬
音楽: 渡邊琢磨
出演: 三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太、松浦祐也、礒部泰宏、橋野純平、森レイ子、井端珠里、杉山ひこひこ、西桐玉樹、深谷由梨香、星野かよ、高川裕也
配給: マグネタイズ
宣伝: カプリコンフィルム

 

2015年6月13日(土)より新宿K’s シネマほか全国順次ロードショー

 

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