『トイレのピエタ』 松永大司監督 & 野田洋次郎 インタビュー

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  • 2015.05.27

『トイレのピエタ』 松永大司監督 & 野田洋次郎 インタビュー

6月6日より全国公開される映画『トイレのピエタ』は、手塚治虫が死の淵まで綴っていた病床日記の最後のページから着想を得た、死を迎える男の魂の触れ合いを描いた物語。長編劇映画デビュー作として、この映画のメガホンを取ったのは、ドキュメンタリー映画『ピュ〜ぴる』の松永大司監督。そして、主演の園田宏役を務めるのは、ロックバンド、RADWIMPSのフロントマン、野田洋次郎。同時代の恋愛観や死生観を歌い続け、熱烈な支持を受ける彼が、映画初出演を果たしている。ヒロイン、真衣役には、1年に渡るオーディションの末に選ばれた若手演技派女優、杉咲花。他、リリーフランキー、宮沢りえ、大竹しのぶら、個性派、演技派が名を連ねる。今回、松永大司監督と、死を目前にした男をありのままで表現した野田洋次郎の二人に、制作経緯や撮影秘話について語ってもらった。

(撮影: 木村高典 / 取材・文: 川端哲生)

 

 

真衣として目の前にいてくれたことで何も考える事なく、投げかけてくれることに、宏として反応するだけで良かったんです。(野田)

 

———余命を描いた映画に対して、涙や感動を煽るような演出に苦手意識があったんですが、この映画はそういうことが全くなくて、胸を打つものがありました。手塚治虫の病床日記に着想があったそうですが、知ったのはどのようなきっかけだったんですか?

 

松永: もう10年以上前に、実家のリビングでテレビを見ていた時に、手塚さんの特集をやっていて、死の直前に手塚さんが日記を書いていたってのを知り、すごく引っ掛かって、「トイレの中で、浄化と昇天」とメモに残したんです。いつかこれを映画にしたいって漠然と思って。まだ映画監督になりたいと考えるよりも前の20代前半の頃だったと思います。でも、温めてきたっていうのとは少し違って、僕は映画の学校を出たわけではないので、この映画を撮れるようになるために、自分自身のキャリアを積み重ねてきたという感覚が近い。それで、ドキュメンタリーを撮ったりしてきたんです。

 

———松永監督は『ピュ〜ぴる』等、ドキュメンタリー作品を多く撮ってきていて、その経験は間違いなく活きていますよね。

 

松永: そうですね。自分のスタイルには、かなり影響してると思います。ドキュメンタリーって、撮っている自分が本当にドキドキするんですよね。噓偽りのないそのままなので。それもあって、フィクションでもドキュメント的な瞬間を撮りたいって、僕は常に思ってるところがあります。そのための演出にすごく時間を割いていて、例えば、今回の映画で、拓人役の男の子が、洋次郎演じる宏に塗り絵を渡すんですけど、それをグチャグチャにしちゃって、拓人に返すというシーンで、その子自身の本当の甥っ子の写真をコピーして、塗り絵の代わりにグチャグチャにして渡したんです。自分の大好きな甥っ子に対してのリアルな反応が撮りたくて。洋次郎にも直前にその写真を渡しました。

 

———リハではやらず、本番でいきなりということですよね。野田さんはその演出を受けて、いかがでした?

 

野田: 酷いなって思いました。でも、そういうことが連発したら僕も文句を言ったかもしれないですけど、監督はそれぐらい嘘を嫌がるんです。現場でも人間がつく嘘ならいいけど、役者が芝居のための嘘をつこうとすると、監督は「そんなことしないでしょ!」ってすかさず怒るんです。そういうジャッジが自分の中に明確にあって、キャスト全員がそれを理解していました。僕は演技というノウハウがゼロなので、自分にないものを要求されても無理だったと思うから、そういう意味で有り難かったです。

 

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———ありのままに存在する姿が映し出されているようで、時折、感情を吐露するシーンがありますよね。逆に、相手役の杉咲さんは、爆発的な演技の中に憂いが垣間見えるような感じがあって、そのコントラストが印象的でした。杉咲さんとのお芝居の呼吸はいかがでしたか?

 

野田: 何だろう…。まんま真衣でしたね。脚本を読んで、自分の中で抱いていた真衣のイメージを超えるくらいに真衣だったから。真衣として目の前にいてくれたことで何も考える事なく、投げかけてくれることに、宏として反応するだけで良かったんです。

 

———病院の自転車置き場の前で、真衣が病人である宏に向かって「死ね」というシーンは、観ていてハッとさせられました。あの台詞を書くのは勇気がいりませんでしたか?

 

松永: シナリオが最終的に20稿くらいまでいったんですけど、あのシーンは最初からあったんです。真衣という人の凄さは腫れ物に触れることを恐れないところだと思うんです。勇気は特に要らなかったという言い方は相応しくないかもしれないけど、そういう人間に僕は憧れていて、それを真衣として描いたんです。社会の常識にとらわれないでぶつかっていくような。病人に「死ね」と言える凄さですよね。そこは振り切っていいと思って、ただ、本人もその言葉を言ったことは後悔してるはずなんです。

 

———偏見なく、素直に人に接する人物ですよね。対して、宏はあまり感情を表に出さないんですけど、その真衣の前では徐々に気持ちを表現していきますね。

 

野田: 途中から演技なのかどうか分からなくやってたのはあって、もちろん台詞以外のことは喋ってないんですけど。言葉も交わさずに存在する二人がどんどん出来上がっていって、お互いが最大限にお互いを影響し合ってたと思います。100%で、分かり合ってたというか。

 

———アドリブは一切なかったんですか?

 

松永: 観てくれた方々が、役者が自然体だって言ってくださって。でも僕、台詞を「てにをは」さえ変えられるのが嫌で。言葉は個性だから、野田洋次郎も言葉を用いて歌ってる人だからそれは分かってくれていたんです。演出しながら、台本の修正をしたりはしましたけど、現場でアドリブを言うことはほとんど無かったです。感情が本当だから、演技なんですけど、そこには嘘が無い。だから、台詞を自分のものにしてくれた2人は凄いんです。

 

野田: でも、その反動で2シーンだけ、現場で1から作ったところがあったんですよ。また、監督が破天荒なこと言い出して(笑) 

 

松永: どうぞ言っちゃってください(笑)

 

野田: 真衣と宏が初めて会うシーンは、台本に無かったものなんです。全部その場で作り上げたんです、監督と僕と杉咲の3人で話し合って。当初の台本では別の出会い方だったんですよ。

 

———重要なシーンですけど、現場で変更したんですね。

 

野田: 前提としてお互いが宏と真衣を持ってたので、その確認作業にはなって結果として良かったです。でも普通に「あり得ないよね」って話は、杉咲ともしてましたけど(笑)

 

松永: 本当にごめんなさい(笑)

 

野田: それぐらい自由度があったというか、ちゃんと自分達のものにしながらやってた感じはありましたね。

 

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———キャスティングから1年以上あったとのことですけど、当て書きしていった部分も、脚本段階であったりしたんですか。

 

松永: これが不思議とないんですよ。当てたわけじゃなく当たった感じで(笑)

 

野田: 演技力の賜物ですかね(笑)

 

松永: そう。本当に凄いんですよ。本当に凄くて。

 

野田: いや、違うから。

 

松永: あれ、乗ったのに(笑) でも、そうですね、幸せな出会いをさせてもらったなって思います。この映画の持ってる力なのかなって思ったりもして。2013年撮影予定が2014年に延びたんです。その時間があったことで僕は、野田洋次郎という人と色んな話が出来た。そのことで、宏という人物が強固なものになった。どんなに変えようとしても変わらないのがあって、それはこの映画が持つ力じゃないかって思うようになったんです。キャスティングもそうですけど、時間を空けて、いまこの時期に映画が世の中に出ていくことも、この映画が選んでくれたのかなって。僕は映画の神様というのを信じていて、やるだけ一生懸命やったら、ご褒美に風を吹かせてくれるとか。実際にあったんです。いい風が吹いている瞬間。そういう瞬間を沢山感じられた作品でした。その中で、野田洋次郎との出会いは、最初の大きいプレゼントだったかもしれないです。

 

 

撮影している段階で、一番最初の観客として、こんなに心動かせるシーンをいくつも撮れたってことが、幸せだなって思いました。(松永)

 

———そういう意味で、「野田洋次郎」ありきでのオーディションだったと思うんですけど、杉咲花さんの決め手はどこだったんですか。オーディションで、野田さんと実際にエチュード(即興芝居)をされたと聞きましたが。

 

松永: 洋次郎には、見学しに来てくれたらいいからって話だったんです(笑)

 

野田: 騙し討ちに合いました(笑)でも、分かりますけどね。並んだところを見てみたいだろうし、二人が普通に喋るだけでも見てみたいだろうなって思うので。

 

松永: 僕を擁護してくれてますね(笑)

 

野田: でも、何人もの候補の方とエチュードをやって、彼女が一人目だったんですけど、やっぱり凄い人でした。

 

松永: 真衣という役を決めるところで、園田宏が決まらないと決められないというところがあったんです。宏という人は、外からの影響で変わっていく人だから、演じる洋次郎に嘘の無い刺激を与えられることが重要で。野田洋次郎というこの繊細な楽器をいかに鳴り響かせることが出来るかが重要でした。杉咲花が芝居が出来るのは分かってたんです。杉咲と洋次郎のリハの芝居の中で、洋次郎ってこうやって怒るんだなっていう姿が見れて、杉咲は洋次郎を刺激できるパワーを持ってるんだなって。同時に、やっぱり宏は野田洋次郎で良かったと再認識もできたんです。

 

———お互いを引き出し合える2人だったんですね。2人のシーンで言うと、夜のプールの場面も印象的な台詞がありました。素性を明かさないまま引き寄せられていく2人がすごく良くて。プールのシーンは大変でしたよね?

 

松永: 泳ぎについては、杉咲個人が、自主練してくれてたみたいですね。

 

野田: 言ってたね。あと、真衣はあまり美味しいもの食べてなさそうだからダイエットしたって言ってました。撮影は夏でしたけど、やっぱり夜のプールは寒かったけど、スタッフ、キャストもあのシーンがピークだなって意識がたぶんあって、その日は撮影の雰囲気が違いましたね。みんながみんな独特の空気だったし、賭けてたところはあって、いい緊張感でした。監督も、なるべく長廻しで、カットを割らずに、流れを大事にしてくれて。

 

松永: 役者を信じたいって思っていて、必要以上のことは言わなくていいなって思ってましたね。カメラが寄る必要もないなって。

 

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———仕上げでの話かもしれないですけど、芝居どころを音楽で煽るようなこともしてないですよね。そこも徹底されていて。だから、実家に帰った宏が佇む場面も静かな感動があって。あのシーンは、ワンテイクだったんですか?

 

野田: 確か3テイクくらいでしたね。

 

松永: 僕、感動して横で泣いてましたからね。

 

野田: 監督、超泣いてたね。

 

松永: このシーンを撮れて良かったって本当に思いました。病院の前の自転車置き場のシーンも、プールでのシーンもそうですけど、映画全体でどうしていくかっていうのはまた仕上げでの作業だけど、純粋に撮影している段階で、一番最初の観客として、こんなに心動かせるシーンをいくつも撮れたってことが、幸せだなって思いました。本当に泣いた。

 

———最後に、この映画のために野田さんが書かれた曲『ピクニック』について聞かせて頂いてもいいですか?

 

野田: 撮影終わって直後に書き始めて、3、4日で作り上げたんですけど。自分の中を、宏が完全に支配してたんですよね。終わってからもしばらくは。

 

———じゃあ、宏として歌ったようなところがあるんですか。 映画の主題歌に使うと意識した曲では確かなかったんですよね。

 

野田: そうですね。宏が絵を書いたように、僕は何が出来るだろうって考えた時に、曲を作ることしかなくて。宏が曲を作るとしたらどうなるんだろうって、撮影での体験をすべて注ぎ込もうと思って作りましたね。もともと主題歌を書く事は決まっていたんですけど、その曲を主題歌にしようとは考えてなくて。映画の打ち上げがあって、そこで歌おうと決めていたんです。スタッフやキャストに感謝の意味も込めて。それが結果的に主題歌に使われることになりましたね。だから、純粋に映画のために書いたんです。

 

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作品情報 『トイレのピエタ』

 

 

原案: 手塚治虫
監督・脚本: 松永大司
主題歌: RADWIMPS「ピクニック」(ユニバーサルミュージック)
出演: 野田洋次郎、杉咲花、リリー・フランキー、古舘寛治、市川紗椰、森下能幸、澤田陸、MEGUMI、岩松了、大竹しのぶ(友情出演)、宮沢りえ
配給: 松竹メディア事業部

 

2015年6月6日(土)より 新宿ピカデリーほか全国公開

 

bamen ©2015「トイレのピエタ」製作委員会