この贅沢貧乏を主宰するのは、山田由梨、23歳。「家プロジェクト」を通し、1年余りの西大島での暮らしの中で起こるすべての事から何かを感じ、それを表現に落とし込む。後ろ盾や保証があるわけではなく、プリミティヴな欲求のみに突き動かされた、とても尊い表現活動に身を投じている。今回、公演直後の西大島の一軒家にて、“そこに暮らす”彼女に話を聞いた。
(撮影: 川面健吾(贅沢貧乏) / 取材・文: 川端哲生)
■創作のルーツ
———ままごとの宮永さんや田島ゆみかさんとの対談を読ませて頂いて、「家プロジェクト」については語り尽くされてるので、今回、「山田由梨」にフォーカスを当てて、贅沢貧乏を掘り下げていけたらと。山田さん、芸能事務所に籍を置いてましたけど、気持ちが創作に向かったのって、いつなんですか?
山田: 高2から事務所に所属して女優をやっていたのですが、通っていた高校が文化祭の演劇が盛んな学校で。役者、振付、演出とか、あらゆる部署をやったりして、もしかしたら作ることに少し興味が出たのはその時かもしれないですけど、多分それがきっかけという訳でもなくて。
———大学に進学してからの影響がやっぱり大きいんですか?
山田: あ、映画サークルで初めて脚本を書いて映画を撮ったんですけど、プロの現場を経験していたのもあって、思いがけずスムーズに動けたんです。それが先輩に良かったって言ってもらって、そこで初めて「作るのが楽しい!」って感じたのを覚えてます。同じ頃、舞台の仕事をしながら自分にとって面白い作品・面白くない作品についてとか、作品を面白くすることについて考え始めました。それまでは言われたことをただやることしかしていなくて、作品に対して受け身だったんですけど、その舞台以降、思考して演じていくことが楽しくなって。それをきっかけに事務所辞めようって(笑) でも、その時はまだ作り手になろうってのは、全然考えてなかったですけど。
———事務所を辞めてから、贅沢貧乏を旗揚げした1作目『スーパーミラー』(2012年7月@大学内)上演までってどれくらいですか?
山田: 1年ないくらいですね。
———2作目の『ルート・リンク』(2012年11月@池袋GEKIBA)はその4ヶ月後ですよね。荒削りでも最初から既に作風が定まっている感があって、これって何を基点に立ち上がったんだろうと思って。現在と比べると、パフォーマンスアート色が強いですよね。
山田: 当初、あんまり演劇をやってるって感覚はなかったんです。お芝居より、技巧的なことやパフォーマンスに興味があったので。大学の影響より、観に行ってた舞台が大きいと思います。『ルート・リンク』の頃は、小林賢太郎さんが好きで、その影響はあったかもしれない。
———あーはい。確か、ブルー&スカイさんの作品も好きって言ってましたね。
山田: はい。不条理演劇とかコメディもすごく好きです。KERAさんの舞台を観て、私はもしかしたら不条理演劇が好きなのかも?と思い、ナイロン100℃の過去作品のDVDを観たり、別役実さんの戯曲を読んでみたりして。あと、ある演出家の方から教えて頂いて如月小春の戯曲を読んだのですが、衝撃的でした…。
■覚醒と進化
———あと、DVDを観て思ったのが、演者の中で山田さんの芝居が良すぎるなってことで。役者として。3作目の『マチト・トリップ』(2013年6月@王子pit北/区域)、それから『アンダー・ザマク』(2013年11月@王子小劇場)になると、また嫌らしくて自分は脇役に回るじゃないですか。それでまた逆に存在感が際立ってて。
山田: 嫌らしいって何ですか(笑)
———いや、褒めてます(笑) 見てて飽きない。事務所を辞める時に役者としての葛藤もあったと思うんですけど、芸能生活を経て、基礎を一度壊す作業をしてるのが特殊だと思うんですよ。どこで気付きがあったんですか?
山田: 事務所にいた時はあまり面白い役をなかなかもらえなかったので、色々な役をやってみたいという欲がその時はすごくありました。役者として思い切り演じたかったから芝居を自分で作り始めたって言ってもいいくらい。それから、やっぱり、旗揚げの一人芝居『スーパーミラー』は大きかったです。ほぼ1人で稽古してたんです。鏡の前で自分で書いた脚本を自分で演じてみて、駄目だったら止めて、また芝居してって。何の修行だよってくらい(笑) ひたすら自分自身との戦いでした。その稽古場に2作目の二人芝居『ルート・リンク』に出てくれていた子(日置かや)がたまに遊びにきてくれていたり。あの時に身体的な部分もそうだし、自分が今まで出せていなかった部分を発揮できたので、役者としての自分のポテンシャルに気付けたのかなって思います。
———当時の作風って今と比べると、もっと観念に寄ってますよね。
山田: どちらかと言うと、本当はそういう方が好きなんだと思います。今の一軒家では、リアルなものを作らざるを得なかったので。
———たぶん、一軒家っていうリアルな場所に入ったことが良い形に作用してると思って。現実と地続きのファンタジーというか、マジックリアリズム的な構造で、いつの間に幻想世界に入り込ませるような感じがある。
山田: 3・4作品目の『マチト・トリップ』や『アンダー・ザマク』では、まずリアルじゃない世界をつくりだして、そこに、私達が住んでる世界との共通項を並べていって、お客さんが現実と地続きの部分を見つけていく。それから、「見えていないだけで実際は存在するもの」が現実の中にもあるかもしれないっていう方向性でつくっていました。でも、家プロジェクトを始めてからはそれが逆になりましたね。まず、築50年の家が圧倒的にリアルで、だから必然的にそこで作る演劇もリアルな存在感が必要で。なので最初の家プロジェクトの『タイセキ』では、そこに住む姉妹の生活感や関係性をどれだけリアルで繊細に表現できるかというところに集中しました。そこに加えて、「妖精」という役は最初から作ろうって思ってたんですけど、やっぱりバランスが難しかった。脚本で行き詰まった時に、概念としての「家」役を出そうって決めてから、私の得意分野になって話が書きやすくなったんですけど。
———元々の資質がそっちなんですね。今回もそのファンタジーへの持っていき方がすごく自然だなって思う。
山田: はい。だから、劇場でやっていた4公演が原点にあって、この家に入って良かったなって思います。ファンタジーからリアルの方向性が逆になるというプロセスを経験したことで、最初からリアルな物を書こうとするよりは自由になれているかもしれないし。家に入ってからも『タイセキ』を書いて、『東京の下』を書いて、今回の『ヘイセイ・アパートメント』。ここでも階段を上っていっているって感じはしますね。
■「Abstract To Concrete」
———話が飛ぶんですけど、家族構成って聞いてもいいですか?
山田: 両親と姉が1人います。
———ですよね。姉妹って重要な要素なのかなって思って。『ルート・リンク』と『タイセキ』がどちらも姉妹の話だったので。確かに姉妹の下っぽいですね。
山田: 本当ですか(笑) 女子の2人芝居で関係が明瞭なものが姉妹で書きやすかったからだと思うんですけど。2作品の姉妹は、なんとなく市子と砂羽って名前を一緒にしてるんです。
———『タイセキ』では、「家」の記憶と「幼少期の妹」の記憶のワードを音楽に合わせて並べるようなシーンが心の琴線に触れたって、さっき石山(蓮華)さんが話してました。あと、他にも生着替えのシーンが良かったって(笑)
山田: 生着替えじゃないです(笑) 服を20着くらい居間にバーッと並べて掛けておいて、「ただいま」「おかえり」というほぼ同じ台詞のやり取りを10日分、繰り返すということをやったんです。芝居の中で、2人は服を1枚脱いで、掛けてある次の日の服を着る、それで日付が変わっていくことを表現してたんですけど。ある姉妹の日替わりの「ただいま」「おかえり」を並べていくだけで、説明的な台詞を入れずに関係性を表現したんです。
———それ面白いですよね。話の筋だったり演技以外の部分でのそういう演出って、贅沢貧乏のメンバーと話し合いながら作り上げていくんですか?
山田: これについては経緯があって。この「家プロジェクト」をやると決めた2014年の1月から、毎月知り合いの役者を呼んでワークショップをしてたんです。自分の演出のスキルアップもしたくて。その時に、自分なりのワークショップを作らなくちゃって思って、「アブコン」っていうワークショップの方法を考え出したんですけど。
———それって略称ですよね。自分で考えた造語ですか?
山田: はい。「Abstract To Concrete」の略です。「抽象から具象へ」っていう意味で。まず、「ただいま」「おかえり」、「え、何?」「いや、別に」、「あれ?ない」「なかったよ」みたいな、固有名詞のない会話が書かれた台本を役者に提示するんです。場所、シチュエーション、役柄の関係性などは決められてなくて、それを役者が考えるんです。同じ「何?」でも言い方は色々あるから。
———山田さん自身、そういう受け芝居してますよね? 短い言葉の表情が豊かというか。
山田: ありがとうございます(笑)そのワークショップでは、 役者に自分で考えてもらうんです。姉妹なのか友達なのか他人同士なのかの関係性を考えて、それから状況を考えて、何についての会話なのかを考えて、用意した台詞との辻褄を合わせてもらうんです。ある法則が練り込まれているので、一筋縄では行かない脚本で、辻褄合わせが少し難しく作られてます。私の演出も当時そうだったのかもしれないですが、周りの同年代の役者さんは与えられたセリフに頼りすぎているように思えて。セリフだけに頼らず自分で書かれていない部分を掘り下げる力を伸ばせたらって思ったんです。
———それは「エチュード(即興芝居)」とは違うんですよね。
山田: 台詞は用意されていて、役者が考えるのはその役の設定だけなので、エチュードとは少し違うんです。エチュードはその場で役者が台詞を考えなくちゃいけないけど、そうじゃなくて、決められた言葉の中でどれくらい表現できるかということをやる。言葉を発するためにどう思考していくかということが同年代の役者や私にとって必要だと思って。それを最初の家公演の『タイセキ』の稽古が始まるまでの期間、毎月やってたんですよ。同じ短いテキストに正解は何十通りもあるから、やっていて時間があっと言う間に過ぎました。そのワークショップを通して、全く同じテキストなのに、役者の芝居や言い方だけでシチュエーションが全く違って見える何通りもの正解が出来て「これ超面白い!」って思って。
———なるほど。ワークショップで生まれたものをそのまま取り入れたわけだ。
山田: 『タイセキ』の姉妹のキャスティングは決まっていたので、その2人(篠原友紀、大村沙亜子)は必ず呼んで、段々2人だけのワークショップもやるようになって、「アブコン」を何度も2人にやってもらって。最初は役作り目的だったんですが、結果的に作品の中に取り込むことになりました。
———今、聞いてて思ったのが、DVDで過去の劇場公演4作品を観た段階では、作家として山田さんは個性があると思ったし、1人の役者としても惹かれるものがあったんです。だけど、演出家としては、人ではなく世界観の演出を重視してるのかなって感じて。なんとなくですけどね。今、言った方法論を生み出したことって、演出家として大きかったですか?
山田: 大きかったですね。正直言って「アンダー・ザマク」が終わった時に、演出家としての未熟さを痛感してました。このままだとこの先へ進めないって。初期の頃は、音リンク、パントマイム、音響インスタレーションみたいな技巧的な作品を作ってたのもあって、音とかタイミング、間についてのこだわりは人一倍あったんですけど、役者が持っている魅力をもっと引き出せるようになりたい、演出家としてのスキルを身につけたいと思ったのもあってワークショップを始めました。
———『ヘイセイ・アパートメント』を観て、それが結実してるなって思って。間の作品を観てないから特にそう感じました。観れなかったのが惜しい。今回、初めて観劇して、そう感じる人は多いと思います。
山田: 嬉しいです。ありがとうございます!
■『ヘイセイ・アパートメント』に込めたもの
———ネタバレしない程度に、『ヘイセイ・アパートメント』の話をしたいんですけど、キャスト5人の中で、大雑把に分けるなら、田島さんと大竹さんが切実さを持った役で、石山さんと藤井さんが比較的、コメディリリーフですよね。山田さんが演じてる役はそのどちらでもなくて、そこが憎いんですけど、最初からこの役は自分でやるって決めていたんですか?
山田: キャスティングが決まった時点では、全く台本が書けてなくて(笑)もちろん私の役も存在してなかったんです。最近の傾向として、稽古しながら台本を書いていく過程で、もう1人必要だって気付くんです。これ良くないんですけど(笑)『アンダー・ザマク』でも本番2週間前に1人増えたし、『タイセキ』でも稽古の過程で、「家」役の必要性に気付いて役を増やしました。急いで舞台を観に行ったり知り合いにあたったりして、ラッキーなことに役者としていつかご一緒できたらと思っていた山田伊久磨さんを配役できたのですが。今回もきっとそうなるって踏んで、最初は私を除く4人の話として考えてました。行き詰まっている時に音楽メンバーの阿部文平が、「立場が違う人を出したら?」って言ってくれて、私があの役をやることになったんですけど。
———的確な助言ですね。それで話が立体的になっていると思います。外からの視点だったし。きっと話も運びやすくなりましたよね。
山田: ナイスアドバイスでした。いっちばん最初は、とあるコンビニが国民の胃袋を掴んだ結果、政権を掴むってことだけ決めて、そういう感じの話になるわーってだけ制作にも伝えてて(笑)
———全く違う話じゃないですか(笑) そういう話を以前は書きそうですよね。『マチト・トリップ』に少し近い気もするし。
山田: そうかもしれないです。そういう発想がまずあったんですけど、ある日、私が勤めてたバイト先の社員さんが疲れてて、その人の疲弊した顔を見て、今回のあの展開へ繋がっていったんですけど。
———それこそ現実との地続き感がありました。じゃあ、最初の飛んだ設定から、リアルに寄せていく作業があったのか。
山田: 最初の設定で作るのは不可能でした(笑) でも「私が自由に言いたいことを言えるのは作品の中だけだから、今感じてることは今言っておかなければいけない」と思った時があって、それから社会情勢を取り扱おうって思ったんです。それをポップに描くことによって、笑えるんだけど実際は笑えない、みたいなところに落とし込みたくて。今の社会で起きてることや不穏な事象っていうのは、絶対に次の世代に影響すると思うので。
———その扱い方がさりげないというか、手付きがわざとらしくないんですよね。
山田: はい。扱い方にはとても注意しました。震災以降、日本人の共通言語みたいに、本来以上の意味を持ってしまっているワードってあると思うので。聞いた時に敏感に反応してしまうような。でも、20年後はそうじゃないと思うから。そういう時間の流れに身を置いているという意味で表現したくて。
———それを山田さんが演じた役が体現してましたよね。悪気なく無知で無自覚というか。
山田: そうですね。社会情勢について「私はこう思う!」って言いたいんじゃなくて、「それでも私達は生きていく」っていう人間を描きたかったので。平成生まれの人達が、平成の次の時代を生きている話にしたかったんです。
———観賞者の想像に委ねていて、描かれるのは普遍的な若者の感情ですよね。そういうバランス感覚ってセンスの成せる技なのかなって思っていたんですよ。あからさまに社会的な話には感じないんだけど、ほのかに心に残るものが確かにある。そこはちゃんと考え抜かれてたんだなって分かりました。
■西大島の暮らしと今後の構想
———この西大島の一軒家で暮らしたことについて。公演中や稽古期間以外はどれくらい住んでいたんですか?
山田: この家を借りてから、私は西大島でバイトしてたんです(笑) 去年の5月から約半年間。この土地の人間になるには、この土地で働くのが早いと思ったので。稽古が終わって泊まって、次の日の8時〜14時でバイトして、帰ってきて、脚本直して稽古してっていう繰り返しで、ずっと西大島にいました。
———まずは土地に馴染もうという努力があったと。
山田: 当時『タイセキ』に出演してくれた大村沙亜子の存在の大きかったですね。自分の生活スタイルを簡単に変えられる子で、彼女も西大島で働きはじめたんです(笑)そのおかげで一緒に暮らしてるみたいになって、助けられました。作品をつくる上でもそうだし、土地に馴染んでいくって意味でも一緒に段階を踏んでくれたから。この家に馴染むってことをキャストには、まずしてもらいたいって思ってたので、それを軽やかに実践して芝居で体現してくれてたと思います。
———この「家プロジェクト」って、作品の外側にも及んだものだって思うので、プロジェクト自体のドキュメンタリーも収めてたら面白かっただろうなって。1年以上も続けてきたわけで、「山田由梨の江東区北砂」じゃないですけど(笑)
山田: (笑)たしかにこの1年でのこの土地との関係の変化は面白かったです。今回の公演の評判がもし良くて、また家を借りて再演するようなことがあれば、もしかしたらそういうドキュメンタリーみたいな話も現実的になるのかもしれないなって思いますけど。でも浸透するのって時間が掛かるんだなって実感してます。
———やっと浸透してきたところかもしれないですよね。どういう人達に届けたいってあります? 一般の人にこそ観てもらいたい内容だと思うんですよね。
山田: そうですね、今の実感としては、普段演劇にそこまで興味ない人が家プロの作品を知ってすごくハマってくれたりしてるのが嬉しいです。動きながら自分で見たいものを見ていくという観劇スタイルも特殊ですし、他の媒体にはない感覚で作品を見れますから。こうやって、新しい感覚で色んな方にうちの作品を観てもらえたら嬉しいですね。贅沢貧乏は、小劇場界に属してる感覚がそれほどなくて、最初は演劇をやってるつもりなかったくらいなので。どこかでこれは演劇だって割り切ったんですけど。私は前衛的なものを作ってるつもりもなくて、特殊な観劇スタイルにフォーカス当てられてしまうことが多いんですけど、劇場として選んだのがたまたま2階建ての一軒家で、たまたまお客さんが移動しないと観れないという必然性が生まれて、それに対して違和感がないようにプロデュースしたら、今の形になっただけなんです。お客さんとして観てくれた映画監督志望の人たちが、「自分で観たいシーンや役者を選べるからカット割りしながら観ている気分になれる」って言ってたりもして。だからジャンルはなんでもいいんです。
———すごく分かるし、その通りだと思います。面白いことをやってるので、後は足を運んで観てもらうためにはどうしたらいいかってことで。
山田: 確かな手応えは感じているので、今が最短のルートを辿っているんじゃないかな、って思います。
———後ろ盾や保証はないのに想いだけで始めた行動力がまずすごいけど。今後、劇場でまた公演をやるにあたって、どういう作品を打ち出すかも重要だと思うけど、もう構想はあるんですか?
山田: ほとんどないです(笑)いつも終わってから次にやることを考えるので行き当たりばったりなんですよね。でも、劇場にいた時には持っていなかった感覚を今は持てているとは思うので。街の人々の日常会話や、風や光や雨だったり環境の些細な動きだったり、ここでの経験で体に落とし込まれた感覚を劇場に持っていくことが楽しみです。
———以前、劇場で公演してた時の作品とは違うものになる確信があるんですね。
山田: 私は、あの時より「人間が面白い」って思い始めていて、人が喋る言葉なんかが以前とは違う感覚で大事になってきてるんです。これは家プロ2作目の『東京の下』の影響が大きくて。街中で喋ってる人の言葉や出会った人との会話を書き起こしたんですけど、私よりもずっと年上の地元の方たちが喋る言葉はどれも元々の私の中に無い語彙だったんです。「昨日、嵐だったから銀杏が沢山落ちてて拾ってきたけど、こんなにいっぱいあるから、洗って、干しあがったら持っていくよ。」みたいな。私の中に無い語彙と、間と、吃りと、動きがたくさんあって、「あー人間ってすごく面白いな」って思って。私の身体感覚にないものが溢れてることに改めて気付かされたんです。だから、今回の作品で、5人の他人を描く純粋な群像劇に初めて挑戦して、それを楽しもうって思えたんです。
———当時は、書きたいけど群像は書けないっていう自覚があった?
山田: それについて考える脳が無かったってのが正しいと思います。女の子を描くことが多かったのも、私の語彙の中で足りるのが女の子だったというだけで、背伸びをして男性や大人を書こうって思えなかった。書いても嘘になるって思って。確実に実感を伴って書ける範囲を書いて、それをゆっくり無理なく広げていこうというスタンスかもしれないです。
———『東京の下』は、自分で街を取材した経験を落とし込んだセルフドキュメンタリーだったわけで、そこで得たものが今回も活かされた。そして、家を出るわけですね。宮永さんとの対談では、家公演の作品をレパートリーにして、色んな土地で再演したいって話してましたけど。
山田: 配役を変えたり、例えば、その土地の言葉に変えたりしてやってみたら絶対面白いなって思ってます。私は地方出身者じゃないから未知数ですけど。いわゆる、全く同じ作品で、小屋を変えながら地方を回るみたいなことに今はあまり興味が涌かなくて。私は、場所があって作品があるっていう繋がりを強く意識する方だとは思うので。
———表現欲求にすごく純粋で、それを追究していった結果、広がっていけばいいって考えの人ですね。邪念とか雑念がなくて気持ちがいい。
山田: 劇団が大きくなったり、もっと多くの人に知ってもらったり、これで食べていきたいっていうのもあるにはありますよ。でも、それが先行しすぎるとあまり良いことが起きない気がしていて。まずはやりたいことを突き詰めて作品を表現することで、評価は後から付いてくればいいなって思います。
脚本・演出: 山田由梨
■ 公演特設WEB: http://zeitakubinbou.com/heisei_apartment/ ■ 家プロジェクトWEB: http://zeitakubinbou.com/uchiproject/ ■ 贅沢貧乏WEB: http://zeitakubinbou.com/
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