2014年8月某日
MC MIRI、MC HIME、DJ HIKARU(ライムベリー)
控室の大会議室では、アイドル同士が楽しそうに談話し、楽しそうに顔を寄せ合い写真を撮り、ブログやツイッターにアップ。楽しげなムード(実は必ずしもそうでないことを後に知る)。その横で、僕はすることもなく、妻と「アイドル、みんな、若いよね」というような会話をして暇をつぶしていた。だから、楽屋にキャスティング協力のエピックソニー田口さんや、生徒役のアイドルPIPのプロデューサー濱野智史さんが現れた時はほっとした。田口さんは以前AZUMA HITOMIさんのアートディレクションで仕事をした相手、濱野さんはさらに以前、彼がまだ批評だけを手掛けている頃にクリエイティヴ・コモンズ関連のインタビューでお会いしている。それぞれにアイドルという重力に引かれて、こうして撮影現場で再会するなんて面白いなと思った。向こうからすれば「西島さんこそ何やってるんですか?」って感じかもしれない。
クラスメイト (姫乃たま)
2014年8月某日
撮影帰り新宿へ向かうロケ車のなかで、茉里さん小明さんと一緒になる。2人の会話が面白く、また、同じインディアイドルとして先輩たる宍戸留美さんへのリスペクトが印象的。とはいっても撮影現場は楽しいことばかりではなく、出演者が泣いている姿を見たこともあったし、実はギスギスした空気もあったと思う(女性が、しかも自意識の強いアイドルたちが集まればそういうこともあるよねと、今では思う)。
一方、脚本段階においては創作者としてのプロ意識を持って竹内監督と激しくやり取りをした僕だが、撮影現場においては「俳優は本業でないし、自ら望んだわけでもない」ということで完全にリラックス。正直何も考えておらず、演技することすらも頭になく、役作りもせず、ただそこにいただけ。プロである撮影スタッフさんには特に厳しいことは言われなかったけど、今思えば「大丈夫かこの人で?」と心配されていたと思うし、実際大丈夫ではなかった気もする。
ところで竹内監督は現場では全く高圧的ではなく、「はい、良いですね」というような柔らかい物腰。前作『新しい戦争を始めよう』では自身でカメラをぶん回していた印象だが、今回はプロの撮影班に撮影を任せ、一歩引いて静かに見守っている印象。静的な撮影を経た上での「配信コメント」を含む過剰にネット的な編集こそが竹内監督の本領発揮だろうな、と秘かに思う。
クラスメイト (篠崎こころ(プティパ -petit pas!-))
2014年8月某日
ロケ地は元製紙工場だった場所。いずこねこ『最後の猫工場』から「廃工場」という設定を発想したけど、ここまで広大な巨大廃工場が用意されているとは知らず、驚く。後に知ったことだが、この場所はももいろクローバーZ「Z女戦争」やCAPSULE「Another World」のMVにも使われた有名な場所で、あの映画『進撃の巨人』もここで撮影されるらしい。海外ロケを好まなかったスタンリー・キューブリックがイギリス本国でベトナム戦争を撮った『フルメタル・ジャケット』のエピソードを思い出し、「あ、日本でもベトナム戦争撮れるな」と思った。「アンドレイ・タルコフスキー『ストーカー』のゾーンの風景も撮れそうだな」とも。
巨大廃工場に気持ちが上がり、初めて「役作りだ」と工場を隅から隅まで歩くが、実は工場での西島の登場シーンはゼロ(既に脚本読んでいるのかどうかも怪しい事態)。僕と同じように撮影に同行したサクライケンタさんも、環境音を採取しているのか工場をフラフラ歩いていた。午後は工場に停めてあったボロボロの自転車を借りて海へ出る。この海岸線を北上すると、いわき市があって福島第一原発があるんだなと、海を眺めて思う。
初日の撮影を深夜まで粘り、夜中にゴルフクラブの宿泊施設に到着。みんなへとへと。蒼波純さんがマネージャーさんや保護者なしに宿泊するとのことで、同い年の娘を持つ身として急に心配になる。男部屋、女部屋と分かれ、僕は竹内監督、サクライさん、音響さんと同じ部屋に。さながら修学旅行のようだが、撮影班は翌日早朝出発なので、少しでも寝ないと体力が削られていく状況。サクライさんが、「脚本について思うところがあって」と修学旅行の告白タイムのように話し始めたが、とりあえず竹内監督には先に寝てもらい、僕が聞き役に。蒼波さんへの心配もそうだけど、なんとなく「父」のようにふるまっていることに気付く。僕は出演者の中で3番目に年上なのだ。
2014年8月某日
本日から、緑川百々子さん永井亜子さんのレイニー&アイロニー木星人コンビと、いまおかしんじさんが合流。入れ替わりに挨拶だけして、僕はスーパーひたちで東京へ戻る。
クラスメイト (桃香(Peach sugar snow))
2014年8月某日
会場は男性席、女性席と分かれており、僕は柵をひとつ挟み男性席、娘は一段階段が上の女性席へ。チラチラ目線を送り安否を気遣う(が、うざがられる)。大盛況に、「本当に大きくなったんだな」と感動。でんぱ組を生んだお店「ディアステージ」シャッターに絵を描いたのは2011年震災直前の二月。その後、僕は実家のある広島へ一時避難したが、そんなことができる自由業は稀で、「ディアステ」という場所に縛られたアイドルたちはその場所で堪えるしかなかったはずで、当時僕は「こんな状況下でアイドルという職業は辛すぎる、いっそ全部捨ててどこかへ行ってしまえば楽なのに」と内心思っていた。
4月に薄暗い東京へ行くことがあったけど、節電のために渋谷の街が暗くて驚いたし、そのぶん二月の秋葉原は夢のように輝いていたなと感じた。三階のバーのお酒がたくさん割れたとも聞いたし、「節電ライブ」という感動的な試みもあった。MARQUEEから刊行された「でんぱブック」にコメントを求められた時にも、他の寄稿者のように「勇気をもらった」「元気が出た」とは書けず、「みんなどうか、お元気で」と言うような力ないコメントしか出せなかった。
ライブでは、その頃のことが思い出され、「みんな、それぞれの持ち場でがんばって大きくなったんだな」不覚にも涙がこぼれた。楽屋へ行き挨拶。娘を紹介すると、いつも強気な娘がガチガチに緊張。「テレビとおんなじだー!」と大興奮。娘に「アイドル観て泣いている」ところを見つからなくてよかった。男子席女子席、でんぱ組に感謝。
■第6回は3月25日更新
監督・脚本・編集: 竹内道宏
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