2013年7月某日
「この娘の世界観を西島さん脚本(漫画化も?)で映画化(ディレクターは別?もしくはスタッフ揃えて西島さん?)ができないか?」
どこまで本気かわからず、話半分に聞き流してしまう。妻に話しても「アイドル?マイナー映画?(眉唾的に)」というような反応。しかしよく読むと「監督」案までも示唆されている。
2013年7月某日
2013年7月某日
2013年8月某日
ようやくメールにリンクされた動画を観るが、ピンとくるものが特にない。アイドルの名前は「いずこねこ」。率直に地下アイドルが解らない(この頃は地下とメジャーの区別もついていない)
2013年8月某日
送られてきたMP3音源をやっと聴く。いずこねこ「最後の猫工場」。「アイドル文脈よりも、内向的宇宙的テクノポップと考えるほうがよさそうですね」と返信。音楽だけのほうがピンと来た感じ。
2013年8月某日
ミイケ先生(西島大介)とイツ子(茉里)
2013年8月某日
引き続きMP3を聴く。映像なしで音に耳を澄まして、少しずつ「いずこねこ」の音楽の魅力を理解。「良い!世界観ある!中田ヤスタカに迫りつつ、強引なMIX打ちが文脈無視って感じで心地よく、生(フィジカル)っぽさを感じます」とメール。僕が後にサクライケンタさんの音楽の例えとして用いる「鬱々とした中田ヤスタカ」を強く感じた。ヤスタカ繋がりということで、「ジブリ×capsule」コラボアニメ『空飛ぶ都市計画』も頭に浮かぶ。アニメのほうが似合うのではないかとも考える。MIXというのは「しゃむ、すこ、のら、みけ、やまと、いずこ、にゃーにゃー」という掛け声で一般的には「たいがー、ふぁいやー、じゃーじゃー」などといった声を上げる行為。2011年2月に秋葉原ディアステージでシャッターの絵を描いた時に知った言葉。
2013年8月某日
『最後の猫工場』を聴きこむ。直井さんから「監督候補はいますか?」と問われたけれど、具体的に答えず、「MOOSIC LABで映画を作るなら、大森さんに続く世代として、「いずこねこ」は良いと思います」というようなメールを返信。大森さんというのは大森靖子さんのことで、僕が考えるに、「MOOSIC LAB」という「音楽×映画」をテーマにした映画祭を通して映画を超えて最も大きく成長した才能。僕はふとした縁でMOOSIC LABの審査員を2012年から担当していて、初めて大森さんに会ったのはボランティアスタッフとして関わっていた広島の横川シネマ(経緯については連載第二回に)の上映イベント。2012年夏のこと。「マンガ家なのに映画館を手伝ってるんですか?これバイト代の換わりにどうぞ」と大森さんが『PINK』のCDを手渡してくれたことを思い出す。大森さんはまだインディーズ時代でアルバムも一枚きりの頃。その後、彼女はシーンを駆け上がる。結果的にいずこねこは、大森さんのような駆け上がり方をしないことになる。
2013年9月某日
最初のメールから二ヶ月、ようやくプロットをまとめ始める。「jupiter girl」「fake town」「rainy irony」などの曲からSFチックな風景が溢れ出す。「木星の裏側」「白い部屋」など歌詞から「2001年宇宙の旅」の冷徹な映像が浮かび、別の曲からは『ブレードランナー』のような酸性雨が降る鬱々とした荒んだ都市が浮かぶ。SFで行けそうだな、行くしかないなと確信。直井さんから時折催促の連絡来る。
2013年9月某日
ようやくプロットを仕上げ、直井さんに送信。映画タイトルは『世界の終わりのいずこねこ』。直井さんが、打ち合わせ初期に冗談まじりに言った仮タイトルそのまま。ぴったりだと思う。プロット書き出しは以下のような感じで、これは後に完成する映画ほとんどそのまま。
ーー廃工場をすり抜けて学校へ通うイツ子。廃工場前に一人アイドルが立っている。「うーにゃんにゃん」と声。驚いて振り返るとアイドルは消えている。段ボールの中にねこ。イツ子無視して学校へ向かう。(タイトル出る)ーー
レイニー&アイロニー(緑川百々子、永井亜子)
2013年10月某日
東京、外苑前、ワタリウム美術館地下オンサンデーズでの僕の個展「すべてがちょっとずつ優しい日曜日」にて、映画監督の山戸結希さんを招いてトーク。山戸さんもまた「MOOSIC LAB」を通じて出会った才能。大傑作『おとぎ話みたい』を世に放ち、東京女子流を主演に据えた『五つ数えれば君の夢』を後に監督。東京へ向かう新幹線、山戸さんから急に脚本と簡単な演技指導のメールが届き、僕が映画『おとぎ話みたい』の登場人物、「出戻り文化人」と言われるの先生役を今日のイベント内で演じることに。映画の1シーンを寸劇でオンサンデーズで再現。「出戻り文化人」は東京を離れ、実家のある広島で妻、娘、息子、義理の父とひとつ屋根の下で暮らす僕には強く刺さるテーマで、その心情も込みで「山戸流の演出をつけられた」と思った。すごい。総勢9人くらいの女性の楽団を連れてきてパフォーマンスをした山戸監督、たぶん頭の中には当時ワタリウム美術館で開催されていた「寺山修司 ノック」展(ポスター絵は僕とgroovisionsが担当)での園子温監督のパフォーマンスに対抗する意思があったのだと思う。ここで演じた「出戻り文化人」は、映画『世界の終わりのいずこねこ』のミイケ先生に受け継がれることに。
2013年10月某日
直井さんからメールにて正式に「竹内監督で進めたいと思います。本人もとてもやる気です」との連絡来る。前述した2012年の「MOOSIC LAB」の広島イベントで、大森靖子さんと一緒に劇場に来てくれたのが竹内道宏監督。上映だけでなく「霊能者パフォーマンス」という不思議な寸劇まで披露してくれて、こんなことをする映画監督がいるんだ、インディ映画ってこんなこともありなんだと驚くと同時に感動。監督第一作『新しい戦争を始めよう』は、放射能不安をスマホや掲示板、主観カメラを織り交ぜてSF的な想像力で描き切った作品。ものすごくやけくそでチープな印象なのに、ハリウッド映画『クローバーフィールド』級のスペクタクルを描き切っていると感じ、他のインディ映画群にはないスケールを僕は絶賛。実は僕も最初から竹内道宏監督が良いのではないかと思っていて、ゆえにプロットにも動画配信の描写を盛り込んでいた。つまり監督のアテ書き。竹内道宏、いずこねこ、西島という布陣が決定。
2013年10月某日
いつの間にか『世界の終わりのいずこねこ』コンペ内の一作ではなく、一本の映画として独り立ちさせることになったらしい。直井さんは竹内監督をとても買ってると感じたし、竹内監督に映画第二作を撮らせることが今回のミッションならば、僕でよければ力になろうと強く思う。
2013年10月某日
出張に合わせて渋谷のパルコ前で、竹内監督、直井さんと打ち合わせ。直井さんとは広島で年に4回くらい会うけれど、竹内監督は2012年以来。ちょうどパルコでは女性によるアートや音楽の祭典「シブカル祭」が開催中で、いずこねこも出演していたけど、サクライケンタさん、茉里さんとも顔合わせすることなく僕は別の打ち合わせへ。今思うとアイドル「いずこねこ」との直接接触を避けていたような気も…。映画『極私的神聖かまってちゃん』で、の子さんのギターを追尾できた竹内監督なら、猫に小さなカメラを仕込んで撮ることもできるはず、猫カメラはどうか?というアイデアも冗談まじりに出る。プロットを元に竹内監督による再プロット作業スタート。
スウ子(蒼波純)
2013年11月某日
『ディエンビエンフー』10巻、『Young,Alive,in Love』3巻の刊行に合わせて、下北沢ヴィレッジヴァンガードにて「西島大介10周年ありがとうエンドレスサイン会」開催。アイドル商法的な複数買い、購入点数によって特典が変化、チェキ撮影や握手会ありという内容で、一晩で500冊が売れる大盛況&大混乱で19時に始まったイベントが終了したのが夜中の26時。「ド滑りチェキ会」の反省を参考にした、僕なりのアイドル商法の実践。モデルをしているという個性的な印象の女性読者の方に名前を聞いたら、「緑川百々子」さんとのこと。最初わからなかったが、「あ、ももちゃん14歳の人!」と帰り道に気づく。
2013年12月某日
最新音源として、いずこねこ『last summer EP』音源届く。「straight -USYN REMIX-」お気に入り。
2013年12月某日
プロット待ち。直井さんに「ちんぐ先生、なかなか上がってこないですね。いずこねこ、別案も思いついたのですが、まあ簡単に言うと高倉健の『夜叉』です。「いずこねこ」が田中裕子なんですが、時間あるし別案まとめましょうか?」というメールを出していて、僕はこの時、じれていた様子。また、この頃は竹内監督を「ちんぐ先生」と呼んでいたらしい。「高倉健の~」というのは映画『夜叉』をモチーフに、高倉健演じる漁村に流れ着いた関西ヤクザを「植民惑星を脱走してきた戦闘レプリカント」と再設定し、子を残せないはずのレプリカントが田中裕子ぽい女性=いずこねこを妊娠させて終わるというSF物語。監督はリドリー・スコットのイメージ。『ブレードランナー』と『ブラック・レイン』が混じったような別のアイデア。いつか形にしたい。
2013年12月某日
竹内監督からプロット届く。西島プロットを踏まえ膨らましたもので、登場人物が「コオロギ」「タピオカ先生」など面白い名前になっていた。「奇病」や「家族」の描写が強められ、竹内監督らしさを感じて面白いと思う。一方、哲学性やテーマの明確さはやや後退した感も。「タピオカ先生」役には某バントメンバーが仮に配役されていたが、結果的に「タピオカ先生」は後に「ミイケ先生」と名前が変わり、「裏のある感じが西島さんが合うと思って」という竹内監督のオファーで、僕が演じることになる。この時点では「出演」なんて思いもよらなかったけど…。
■第2回は3月12日更新
監督・脚本・編集: 竹内道宏
⇒公式サイトはこちら
★新宿K’sシネマにて、映画公開記念トークイベント開催決定!
⇒コミックス版『世界の終わりのいずこねこ』全国書店&ECサイトにて発売中!
【さやわか式☆現代文化論 #16】さやわか×西島大介×濱野智史
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