【第1回】映画『世界の終わりのいずこねこ』制作日記 ~アイドルと映画に巻き込まれた僕たち~ 西島大介

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  • 2015.03.10

【第1回】映画『世界の終わりのいずこねこ』制作日記 ~アイドルと映画に巻き込まれた僕たち~ 西島大介

アイドル「いずこねこ」主演映画企画として進行しながら、撮影前にその「いずこねこ」の活動が突如終了するなど困難を乗り越え、3/7に公開となった映画『世界の終わりのいずこねこ』。メガホンを取った気鋭の映像作家、竹内道宏監督と共同で脚本を手掛け、語り部的な役どころ、ミイケ先生役として出演も果たしている漫画家(本作のコミカライズ単行本も3/7発売)の西島大介氏によるプロダクションノートを短期集中連載。映画の立ちあがりから撮影、先行イベント、コミカライズなどを経て、映画公開に至るまでの悲喜交々を綴った記録を、スチールを担当された少女写真家の飯田えりかさんによる劇中写真&オフショット写真と共に公開。

 

 

2013年7月某日

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映画宣伝・配給会社「SPOTTED PRODUCTIONS」のプロデューサー、直井卓俊さんから新作映画への脚本参加の初めての打診。当時のメールを引用すると以下。

 

「この娘の世界観を西島さん脚本(漫画化も?)で映画化(ディレクターは別?もしくはスタッフ揃えて西島さん?)ができないか?」

 

どこまで本気かわからず、話半分に聞き流してしまう。妻に話しても「アイドル?マイナー映画?(眉唾的に)」というような反応。しかしよく読むと「監督」案までも示唆されている。 lineA

 

2013年7月某日

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出張先の東京、渋谷にてSPOTTED直井さんと打ち合わせ。蓮沼執太くん、HEADZ荻原さんもなぜか同席。「DJまほうつかい」リリースの打ち合わせの流れだったのだと思う。 lineA

 

2013年7月某日

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DJまほうつかい『All those moments will be lost in time EP』の発売日直前、サインして握手してチェキが撮れる先行発売イベントをオンサンデーズで突発的に開催。お客さん7人という大失敗。通称「ド滑りチェキ会」と呼ばれ、僕はここから「アイドル」を学ぶことになる。7人のお客さんの中には後に『BiSキャノンボール』を世に送り出す、スペースシャワーTV高根順次さんもいて、高根さんや数少ないお客さんから「チェキは接触して撮るのがコツ」「ルール明確でないと乗れない」「会社員相手に平日に17時スタートはあり得ない」などと貴重なアドバイスをいただく。 lineA

 

2013年8月某日

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ようやくメールにリンクされた動画を観るが、ピンとくるものが特にない。アイドルの名前は「いずこねこ」。率直に地下アイドルが解らない(この頃は地下とメジャーの区別もついていない)

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2013年8月某日

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送られてきたMP3音源をやっと聴く。いずこねこ「最後の猫工場」。「アイドル文脈よりも、内向的宇宙的テクノポップと考えるほうがよさそうですね」と返信。音楽だけのほうがピンと来た感じ。

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2013年8月某日

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五反田のゲンロンカフェで「ひらめき☆マンガ学校三学期」最終講義。妻も同行し、久しぶりに夫婦で東京。会場に来ていた猫好きの編集さんに「今、実は映画の仕事を依頼されており、MOOSIC LAB 2014で、いづこねこ(原文ママ)というアイドルさんと絡む予定で、仮タイトルが『世界の終わりのいづこねこ』(原文ママ)なんだけど、監督はしないまでもたぶん脚本は書くことになりそう」とメール。別件で依頼のあった猫好き編集者に「猫」つながりで話を振ってみた以上の話ではなく、今思うと単なるむちゃぶり。「ず」と「づ」も曖昧。この頃はまだ、映画コンペ「MOOSIC LAB 2014」の中の一作という扱いだった。この講義に『おとぎ話みたい』監督、山戸結希さんがこっそり来ていたことを後に知って焦る。 lineA

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ミイケ先生(西島大介)とイツ子(茉里)

 

2013年8月某日

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引き続きMP3を聴く。映像なしで音に耳を澄まして、少しずつ「いずこねこ」の音楽の魅力を理解。「良い!世界観ある!中田ヤスタカに迫りつつ、強引なMIX打ちが文脈無視って感じで心地よく、生(フィジカル)っぽさを感じます」とメール。僕が後にサクライケンタさんの音楽の例えとして用いる「鬱々とした中田ヤスタカ」を強く感じた。ヤスタカ繋がりということで、「ジブリ×capsule」コラボアニメ『空飛ぶ都市計画』も頭に浮かぶ。アニメのほうが似合うのではないかとも考える。MIXというのは「しゃむ、すこ、のら、みけ、やまと、いずこ、にゃーにゃー」という掛け声で一般的には「たいがー、ふぁいやー、じゃーじゃー」などといった声を上げる行為。2011年2月に秋葉原ディアステージでシャッターの絵を描いた時に知った言葉。

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2013年8月某日

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『最後の猫工場』を聴きこむ。直井さんから「監督候補はいますか?」と問われたけれど、具体的に答えず、「MOOSIC LABで映画を作るなら、大森さんに続く世代として、「いずこねこ」は良いと思います」というようなメールを返信。大森さんというのは大森靖子さんのことで、僕が考えるに、「MOOSIC LAB」という「音楽×映画」をテーマにした映画祭を通して映画を超えて最も大きく成長した才能。僕はふとした縁でMOOSIC LABの審査員を2012年から担当していて、初めて大森さんに会ったのはボランティアスタッフとして関わっていた広島の横川シネマ(経緯については連載第二回に)の上映イベント。2012年夏のこと。「マンガ家なのに映画館を手伝ってるんですか?これバイト代の換わりにどうぞ」と大森さんが『PINK』のCDを手渡してくれたことを思い出す。大森さんはまだインディーズ時代でアルバムも一枚きりの頃。その後、彼女はシーンを駆け上がる。結果的にいずこねこは、大森さんのような駆け上がり方をしないことになる。

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2013年9月某日

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最初のメールから二ヶ月、ようやくプロットをまとめ始める。「jupiter girl」「fake town」「rainy irony」などの曲からSFチックな風景が溢れ出す。「木星の裏側」「白い部屋」など歌詞から「2001年宇宙の旅」の冷徹な映像が浮かび、別の曲からは『ブレードランナー』のような酸性雨が降る鬱々とした荒んだ都市が浮かぶ。SFで行けそうだな、行くしかないなと確信。直井さんから時折催促の連絡来る。

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2013年9月某日

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ようやくプロットを仕上げ、直井さんに送信。映画タイトルは『世界の終わりのいずこねこ』。直井さんが、打ち合わせ初期に冗談まじりに言った仮タイトルそのまま。ぴったりだと思う。プロット書き出しは以下のような感じで、これは後に完成する映画ほとんどそのまま。

 

ーー廃工場をすり抜けて学校へ通うイツ子。廃工場前に一人アイドルが立っている。「うーにゃんにゃん」と声。驚いて振り返るとアイドルは消えている。段ボールの中にねこ。イツ子無視して学校へ向かう。(タイトル出る)ーー

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レイニー&アイロニー(緑川百々子、永井亜子)

 

2013年10月某日

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東京、外苑前、ワタリウム美術館地下オンサンデーズでの僕の個展「すべてがちょっとずつ優しい日曜日」にて、映画監督の山戸結希さんを招いてトーク。山戸さんもまた「MOOSIC LAB」を通じて出会った才能。大傑作『おとぎ話みたい』を世に放ち、東京女子流を主演に据えた『五つ数えれば君の夢』を後に監督。東京へ向かう新幹線、山戸さんから急に脚本と簡単な演技指導のメールが届き、僕が映画『おとぎ話みたい』の登場人物、「出戻り文化人」と言われるの先生役を今日のイベント内で演じることに。映画の1シーンを寸劇でオンサンデーズで再現。「出戻り文化人」は東京を離れ、実家のある広島で妻、娘、息子、義理の父とひとつ屋根の下で暮らす僕には強く刺さるテーマで、その心情も込みで「山戸流の演出をつけられた」と思った。すごい。総勢9人くらいの女性の楽団を連れてきてパフォーマンスをした山戸監督、たぶん頭の中には当時ワタリウム美術館で開催されていた「寺山修司 ノック」展(ポスター絵は僕とgroovisionsが担当)での園子温監督のパフォーマンスに対抗する意思があったのだと思う。ここで演じた「出戻り文化人」は、映画『世界の終わりのいずこねこ』のミイケ先生に受け継がれることに。

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2013年10月某日

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直井さんからメールにて正式に「竹内監督で進めたいと思います。本人もとてもやる気です」との連絡来る。前述した2012年の「MOOSIC LAB」の広島イベントで、大森靖子さんと一緒に劇場に来てくれたのが竹内道宏監督。上映だけでなく「霊能者パフォーマンス」という不思議な寸劇まで披露してくれて、こんなことをする映画監督がいるんだ、インディ映画ってこんなこともありなんだと驚くと同時に感動。監督第一作『新しい戦争を始めよう』は、放射能不安をスマホや掲示板、主観カメラを織り交ぜてSF的な想像力で描き切った作品。ものすごくやけくそでチープな印象なのに、ハリウッド映画『クローバーフィールド』級のスペクタクルを描き切っていると感じ、他のインディ映画群にはないスケールを僕は絶賛。実は僕も最初から竹内道宏監督が良いのではないかと思っていて、ゆえにプロットにも動画配信の描写を盛り込んでいた。つまり監督のアテ書き。竹内道宏、いずこねこ、西島という布陣が決定。

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2013年10月某日

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いつの間にか『世界の終わりのいずこねこ』コンペ内の一作ではなく、一本の映画として独り立ちさせることになったらしい。直井さんは竹内監督をとても買ってると感じたし、竹内監督に映画第二作を撮らせることが今回のミッションならば、僕でよければ力になろうと強く思う。

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2013年10月某日

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出張に合わせて渋谷のパルコ前で、竹内監督、直井さんと打ち合わせ。直井さんとは広島で年に4回くらい会うけれど、竹内監督は2012年以来。ちょうどパルコでは女性によるアートや音楽の祭典「シブカル祭」が開催中で、いずこねこも出演していたけど、サクライケンタさん、茉里さんとも顔合わせすることなく僕は別の打ち合わせへ。今思うとアイドル「いずこねこ」との直接接触を避けていたような気も…。映画『極私的神聖かまってちゃん』で、の子さんのギターを追尾できた竹内監督なら、猫に小さなカメラを仕込んで撮ることもできるはず、猫カメラはどうか?というアイデアも冗談まじりに出る。プロットを元に竹内監督による再プロット作業スタート。

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スウ子(蒼波純)

 

2013年11月某日

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『ディエンビエンフー』10巻、『Young,Alive,in Love』3巻の刊行に合わせて、下北沢ヴィレッジヴァンガードにて「西島大介10周年ありがとうエンドレスサイン会」開催。アイドル商法的な複数買い、購入点数によって特典が変化、チェキ撮影や握手会ありという内容で、一晩で500冊が売れる大盛況&大混乱で19時に始まったイベントが終了したのが夜中の26時。「ド滑りチェキ会」の反省を参考にした、僕なりのアイドル商法の実践。モデルをしているという個性的な印象の女性読者の方に名前を聞いたら、「緑川百々子」さんとのこと。最初わからなかったが、「あ、ももちゃん14歳の人!」と帰り道に気づく。

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2013年12月某日

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最新音源として、いずこねこ『last summer EP』音源届く。「straight -USYN REMIX-」お気に入り。

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2013年12月某日

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プロット待ち。直井さんに「ちんぐ先生、なかなか上がってこないですね。いずこねこ、別案も思いついたのですが、まあ簡単に言うと高倉健の『夜叉』です。「いずこねこ」が田中裕子なんですが、時間あるし別案まとめましょうか?」というメールを出していて、僕はこの時、じれていた様子。また、この頃は竹内監督を「ちんぐ先生」と呼んでいたらしい。「高倉健の~」というのは映画『夜叉』をモチーフに、高倉健演じる漁村に流れ着いた関西ヤクザを「植民惑星を脱走してきた戦闘レプリカント」と再設定し、子を残せないはずのレプリカントが田中裕子ぽい女性=いずこねこを妊娠させて終わるというSF物語。監督はリドリー・スコットのイメージ。『ブレードランナー』と『ブラック・レイン』が混じったような別のアイデア。いつか形にしたい。

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2013年12月某日

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竹内監督からプロット届く。西島プロットを踏まえ膨らましたもので、登場人物が「コオロギ」「タピオカ先生」など面白い名前になっていた。「奇病」や「家族」の描写が強められ、竹内監督らしさを感じて面白いと思う。一方、哲学性やテーマの明確さはやや後退した感も。「タピオカ先生」役には某バントメンバーが仮に配役されていたが、結果的に「タピオカ先生」は後に「ミイケ先生」と名前が変わり、「裏のある感じが西島さんが合うと思って」という竹内監督のオファーで、僕が演じることになる。この時点では「出演」なんて思いもよらなかったけど…。

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■第2回は3月12日更新

 

作品情報 『世界の終わりのいずこねこ』

 

 

監督・脚本・編集: 竹内道宏
共同脚本・コミカライズ: 西島大介
企画: 直井卓俊
原案・音楽: サクライケンタ
出演: 茉里(いずこねこ)、蒼波純、西島大介、緑川百々子、永井亜子、小明、宍戸留美、いまおかしんじ、蝦名恵、ライムベリー、みきちゅ、PIP、コショージメグミ、レイチェル、姫乃たま、あの / ようなぴ / しふぉん(ゆるめるモ!)、篠崎こころ(プティパ -petit pas!-)、木村仁美、宗本花音里、Classic fairy、桃香(Peach sugar snow)、月詠まみ(恥じらいレスキュー)
配給: SPOTEED PRODUCTIONS
製作: ekoms+SPOTTED PRODUCTIONS
製作協力: CAMPFIRE
©2014『世界の終わりのいずこねこ』製作委員会

 

⇒公式サイトはこちら

 

★新宿K’sシネマにて、映画公開記念トークイベント開催決定!
■3月17日(火) トークショー (本編上映終了後)
登壇者: 森直人(映画評論家)、九龍ジョー(ライター)、西島大介(漫画家)
■3月19日(木) トークショー (本編上映終了後)
登壇者: 姫乃たま(地下アイドル/ライター)、直井卓俊(企画プロデューサー)、竹内道宏監督
■3月20日(金) トークショー (本編上映終了後)
登壇者: 西島大介(漫画家)、ささかまリス子(秋葉原ディアステージ)、竹内道宏監督
■3月22日(日) トークショー (本編上映終了後)
登壇者: 吉田豪(プロインタビュアー)、サクライケンタ(いずこねこプロデューサー)
■3月23日(月) トークショー (本編上映終了後)
登壇者: 宍戸留美(声優)、いまおかしんじ(監督)、竹内道宏監督

 

 

⇒コミックス版『世界の終わりのいずこねこ』全国書店&ECサイトにて発売中!
イベント情報 西島大介「世界の終わりのいずこねこ展」
期間: 2015年3月7日(土)~4月13日(月)
時間: 月~金/13:00~20:00 土日祝/12:00~19:00
(イベントの際は異なる場合もございます。予めご了承ください。)
入場料: 500円 (開催中の展覧会共通)
会場: parabolica-bis[パラボリカ・ビス]
TEL: 03-5835-1180

 

【さやわか式☆現代文化論 #16】さやわか×西島大介×濱野智史
映画『世界の終わりのいずこねこ』――アーキテクチャ、アイドル、コミック、その先へ
日程: 2015年3月21日(土)
時間: 19:00~21:00 (開場:18:00)
PIPによるコミック単行本お渡し会も同時開催!
入場料: 前売2600円(1D付) / 当日3100円(1D付)
会場: ゲンロンカフェ
TEL: 03-5719-6821

 

「世界の終わりのいずこねこフェア」
日程: 2015年3月10日(火)~3月27日(金)
入場料: 無料
会場: BIBLIOPHILIC & bookunion 新宿
TEL: 03-5312-2635
コミック版『世界の終わりのいずこねこ』単行本および西島大介さん過去作品、映画スチール担当の飯田えりかさんによる写真集、サクライケンタさんによるサントラ他関連CDなども販売予定。期間中、『世界の終わりのいずこねこ』ミニ原画展も開催! BIBLIOPHILIC & bookunion新宿限定・特製トートバッグ発売あり!

PROFILE 西島大介 Daisuke Nishijima
1974年東京生まれ、広島在住。漫画家。2004年に『凹村戦争』でデビュー。代表作に『世界の終わりの魔法使い』 『ディエンビエンフー』などがある。2012年に刊行した『すべてがちょっとずつ優しい世界』で第三回広島本大賞を受賞、第17回文化庁メディア芸術祭推薦作に選出。装幀画を多く手掛け、「DJ まほうつかい」名義で音楽活動も行う。映画『世界の終わりのいずこねこ』脚本&出演など、活動は多岐に渡る。

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飯田えりか Erika Iida
1991年東京都生まれ。少女写真家。2011年から青山裕企氏に師事する。2014年に日本大学芸術学部写真学科卒業。自らの経験による少女性の考察をもとに少女に戻すポートレート作品を主に制作。ショートカット推進委員会公認カメラマン、アイドルグループ「hanarichu」メインフォトグラファー。