(撮影:木村高典 / 取材・文:川端哲生)
———橋本さんは、かねてから(本作で音楽を担当した)大森靖子さんのファンでしたよね?出演の経緯はどのような感じだったんですか?
橋本: 最初はMVに出ないかと確か言われて、それが実は映画の企画だったという感じで。衣装合わせの頃にはもう知ってましたけど、ホントの最初の最初は知りませんでした。
松居: 僕の方で打ち合わせてたのは、映画をやるけど、いきなり映画やっても当たり前だから、映画の振りをしたMVを撮って、それが映画に発展していくような見せ方にしようってのがあって。去年10月にクリープハイプとやった『自分の事ばかりで情けなくなるよ』は、MVが大きくなって映画になったんですけど、これは先に映画が決定している形でした。橋本さん主演でやるというのは先に決まっていたので、それなら物語の途中から始まって、途中で終わるようなMVはどうですかって提案した感じですね。
———(橋本さんは)松居監督の印象はどうでしたか?
橋本: 松居さんとは、プライベートで一度だけお会いしたことがあって。不思議な出会いがあって。微妙な(笑)何でしたっけ?
松居: 『桐島、部活やめるってよ』のプロデューサーと僕、知り合いで、何人かでご飯食べてたら、そこにその方と一緒に(橋本さんが)来て。
橋本: 行ったら(松居さんが)居たみたいな(笑)
松居: その時は『管制塔』良かったです、みたいな話をしたくらいで(笑)
橋本: (笑)そこでお会いしてたので、近々ご一緒出来たらって話はしてて。
松居: まあ予感じゃないですけど。でも誰にでも言うやつかな(笑)あと、その後に『自分の事ばかりで情けなくなるよ』を観に来てくれてて。確か階段に座って観てたんですよね。
橋本: そうそうそう。立ち見だったんです。観たいと思って観に行った日がちょうど初日だったんです。偶然で。人いっぱいでびっくりして。松居さんが泣いたっていう噂の舞台挨拶の回ではなくて残念だったんですけど(笑)
松居: いやいやいや(笑)
———昨年末のMVから時間を挟んで映画を観た時、受けた印象が違ったんです。別の作品を観ているようで。どういった順序で製作したんですか?
松居: 物語が1から10あるとしたら、4〜7くらいをまず作ろうってことで、去年11月頃にその物語中盤を撮影したんです。とはいえ全体のプロットは先に作るしかなくて、その中から『ミッドナイト清純異性交遊』と『君と映画』のパートになった中盤の台本を起こしてって感じですね。それから追撮で、映画の序盤と終盤を撮りました。撮影の間隔がかなり空いたので、もしかしたらMV2本撮って終わりなのかもって不安に思ったりもしました(笑)
———その過程で、大森さんはどれくらい関わっていたんですか?
松居: 最初にプロット作る段階で、大森さんの音楽をずっと聴いて、こんな感じでやろうって書いてはみたものの、大森さんの人となりを分かってなくて、ライブに足運んで、プロット見せて相談してみたいなことはずっとやっていました。最初は、メンヘラっぽいストーリーだったんですけど、そっちじゃない方向がいいっていうことで、直して直してって。
橋本: メンヘラって何ですか?
松居: ちょっと病んでしまっているみたいな。
橋本: あー、はい。
松居: 大森さんは「昔はそうだったけど、それはキャラを演じてただけで、目指していたのはその先のものだから、そっちをすくい取って欲しい」ってことで。
———『きゅるきゅる』等を聴いても、明らかに『PINK』当時とは違いますよね。
松居: そうですね。弾き語りは切実だったけど、渡された『ミッドナイト清純異性交遊』もかなりポップだったので。
———友達でも恋人でもない女性が女性に惹かれるみたいな作品は好きなんですけど、男には腑に落ちて完全には分からない部分もあって。詩織と亜弓の関係について、橋本さんはどう思いますか?
橋本: 自分にないものを持ってる子に惹かれるってのはお互いあったんじゃないですかね…。
———亜弓が詩織に憧れて惹かれるって気持ちは分かっても、その逆の感情がどういうものなんだろうって思って。
橋本: そこは蒼波純ちゃんの魅力そのものであって。なんだろう。天然素材な感じで。
———お芝居自体も魅力がありますよね。危ういんですけど。
松居: アウトでしょ(笑)何回かアウトにはなってますけど(笑)
———いや、良かったですよ。「iPhone返して」とか。あの後の町田(マリー)さん演じる母親の行動が松居監督っぽいなって(笑)
松居・橋本: (笑)
松居: ぶっ壊れたいなって思って。台本通りなんですけど。
橋本: あれは、10秒くらい笑いました(笑)
松居: (笑)お母さんはずっと我慢してて、怒りをぶつけられない状態が続いてて、爆発させたいなって思ったんですよね。
橋本: おかしいですもん、あのシーン。あんなことされて、純ちゃんが「大丈夫〜?」って。いやいや、全然大丈夫じゃないからって(笑)
———おかしいはずなのに、妙に納得しました。蒼波さんは現場ではどうでした?
松居: 最初、純ちゃんが東京に来ていて会いに行った時も、声がもう出てなくて、紹介してくれた方からも「声は出ないんですが、大丈夫ですか?」って確認されて(笑)じゃあ逆にもうそういうことにしようって。追っかけだから緊張してあんま喋れないけど、代わりにブログとかで発言するみたいな。後半では段々と喋っていくんですけど。撮影にも慣れてきて。
———じゃあ、亜弓の役の状況に合っていたんですね。
松居: そうですね。でも追撮で、あらためて会った時にはまたゼロに戻って、また初対面みたいになってて(笑)
———(笑)映画の冒頭部分も追撮ってことですよね?
松居: そうです。橋本さんの髪が実はちょっと長いと思います。
橋本: (笑)
———橋本さんが『ミッドナイト清純異性交遊』を歌うじゃないですか?あれはMV撮影の際にも歌ってたってことですか?
松居: そうですね。
———上手かったです、歌。紅白歌合戦以来の歌声で。
橋本: やった!(笑)
———稲葉友さん演じる浩平の分かってなさというか、無神経さに苛立つんですけど、自分が当事者だったら、ああなるかもなって。
松居: 単純にいい奴なんですよね。それが段々、腹立ってくるって感じで。
———浩平は劇団をやっていて、持論を展開するシーンがありますけど、劇団をやっている松居監督の自嘲もあるんですか?
松居: そうですね。すごく気持ち分かるんですよ。でもそういうこと言う奴、ダサいなって思いもあるので(笑)
———最初からあったんですか?彼氏役は劇団をやっている設定にしようって。
松居: 大森さん側と自分側に寄せて作りたいなって思った時、劇団が一番リアルだったので、劇団主宰の男にしようって。
———(橋本さんは)浩平みたいな男性はどうですか?
橋本: 興味ないです(笑)
松居: でも、稲葉自身はすっげーいい奴で、撮影終わってもずっと現場にいて、出ないシーンもほぼ現場にいたんですよ。やりがいを感じたのか。
橋本: 好きになってくれたのかなって思いますね。純ちゃんのことや私のことも面白がってくれて。
———詩織役は、自然体以下じゃないですか?言葉は変ですけど、橋本さんって成功されてるというか、売れているけど、詩織はそうじゃないから、イベントや配信での振る舞いが、すごく新鮮というか。
松居: お客さんに媚びようとしてる感じですよね。だから、映画観てイメージ変わったら嬉しいなって思うんです。橋本愛可愛いなって思われたい。
橋本: ありがとうございます(笑)
松居: でも、売れないモデル役ってことで、撮影会でも人が集まらないってのは無理あるだろって、書いてて思いましたけど(笑)
———人気ないのを取り繕うような台詞がすごくリアルなんだけど、橋本さんがそんなわけないとは確かに感じました(笑)
橋本: そうかな〜(笑)
松居: (笑)
———今、アイドルやモデルって等身大になってきていて、夢をみたくなると思うんです。だけど、この映画で描かれてるような現実もある。それについてどうですか?
橋本: みんな大人に潰されてる気がしますね。利重(剛)さん(が演じた)みたいな大人がいっぱいいますからね(笑)ああいう人っていっぱいいる。
松居: すぐ脱がせる(笑)気持ち込もってそうで、込もってないやつね。
———親身なようで親身じゃない人ですよね。利重さんがツイキャスに映り込むシーンが面白いです。あのツイキャスは、編集段階での処理なんですか?
松居: 仕上げ段階ですね。全部出来上がってから。台本には芝居に関わるようなことはざっくり書いてて。むしろ芝居に合わせてテロップ作ったりしたんで。頭おかしくなりそうでした。あの作業してる3日間は。
———ツイキャスをやっている橋本さんの芝居、すごくリアルでしたけど。
橋本: 本当ですか?
松居: ツイキャスみて研究してくれたみたいですね。
橋本: 普段やらないので、今回初めてツイキャスっていうものを知って、よく分からな過ぎて、めっちゃ調べて。え、何?コインって思ったりして(笑)普通に台詞で言ってるけど、チンプンカンプンでした。実際にテロップは流れていないので、目線とか違ってたらどうしようって思ったり。
———一緒にいるのに、LINEでやり取りするとか、今っぽかったです。
松居: 実際に仲間内で僕もやるんで。会話に飽きて、LINEし始めて、グループLINEでずっとニヤニヤしながらやってるみたいな。
———あくまで遊びでってことですよね。人見知りとかではなく?
松居: もちろんです(笑)
橋本: LINEはやるんですけど、一緒にいる時は私はやらないですね(笑)
松居: ツイキャスのシーンで、橋本愛、素晴らしいって思ったのが、女子トイレで配信するシーンがあって、スタッフが入ってどうこうするわけにいかないから、スマホを渡して、こういう感じで撮ってって。いってらっしゃいって。
橋本: 一人でカメラワークまで全部やって(笑)
松居: 一人で芝居して一人で撮ってみたいな。俺らは、女子トイレの前に、人が来ないように並んで。
———やりますね(笑)ツイキャスという発想が大森さんを思い起こさせました。
橋本: (大森さんは)モリステとかやっていましたよね。
松居: 確か、大森さんは自撮りの印象があって、そういうの出来ないかなって。撮影の後半の方は忙しくて(大森さんに)相談はしてないんですけど。あ、思い出した!『ミッドナイト清純異性交遊』のMV で、橋本さんと蒼波さんが、iPhoneを撮り合うのが思いのほか良くて、それでツイキャスだ!ってなったんです。きっかけはMVでのiPhoneの撮り合いですね。
———3回観させて頂いたんですけど、映画がファンタジーっぽくなってから、直感では映画を楽しみながら、映画を分かろうとする自分もいて、最後に『呪いは水色』という名曲が流れて、それで満たされる感じもあって(笑)
松居: そうですね。『呪いは水色』は、歌詞と映画が本当にすごく合ってて。是非、泣いてください。
———話が逸れるんですが、企画プロデューサーの直井さん曰く、これは「究極のMOOSIC作品」ってことで。松居監督は「MOOSIC LAB」には参加していないですよね。(役者として出演の)『NOBIDORAND』は良かったですけど。「MOOSIC LAB」の作品は観ていますか?
松居: あまり観たことなくて。観て良かったら影響されそうだし、悪かったら腹立ちそうだし、っていうので見るのが怖くて。
橋本: 今年の作品は観れてないんですけど、2013年のプログラムはほぼ観ていて、企画自体のファンで。試写でこの作品を観た時、直井さんにMOOSICじゃないですかって話して。「MOOSIC LAB」って音楽と映画の融合って感じでやっていて、この映画を観た時に企画として完璧だって思って。すごいなって。
松居: 僕が呼ばれてれば…。
———サラっと出来ちゃうよって感じですか?
松居: いやいや(笑)嫉妬もちょっとありますね。横の繋がりが強いじゃないですか。僕はあまり作れないんです。
橋本: もうちょっと深い関係になりたいってのはあるんですか?
松居: うーん。寂しいなっていうパフォーマンスだけなのかもしれない。
———映画音楽について、以前に別の取材では言われてましたよね。煽るような使い方はしたくないって。
松居: 音楽が単体として素晴らしいから、そこに足並みを揃えても揃うわけないって思っていて、むしろ音楽が勝手に行こうとするなら、こっちも勝手に行こうとして、ぶつかったものこそがあるべき形だって思っていて。映画を説明するような音楽は必要ないって。
————この映画はそうなってますよね。
松居: 大森さんにも要望は出すんですけど、気にせずにどんどん音楽を作るから。音楽だけで自立しているから、そこには合わせられない。
————劇中のライブシーンは、実際のライブなんですよね?
松居: ガチです。ライブ中の一番後ろにいて、スタッフがエリア作って。
橋本: 私は勝手に芝居して。大森さんにその旨を伝えてたので、流れだけはやってくれて、でも台詞とかはなくて。契約書の話をしてたり(笑)
松居: あれは普通にMCで言ってるだけですね(笑)お客さんに話を振ってほしいって話はしてたんです。
橋本: 映画に合わせてちょっと演技をしてもらいつつ。でも、私をちゃんとお客さんにしてくれて。「ほらカワイイ」って言ってくれたり。アドリブで。
————『自分の事ばかりで情けなくなるよ』でもありましたよね。山田真歩さんのパートで、半ドキュメントみたいな感じで。
松居: ミュージシャンってああいう即興、凄いですよね。こうやって欲しいとか具体的に決めないほうが、なんかうまくいくから。すっげーな、ミュージシャンって、思いますね。
————では、最後にベタで申し訳ないですが、映画を観て頂ける方々に一言ずつ頂いてもいいですか?
橋本: 私はこれを映画ってまだ言えなくて、こういうものが生まれましたっていう感じで。映画って自分からはそんなに言いたくないなって。あとは、蒼波純ちゃんを是非、発見して下さい。
————「橋本愛」の新しい一面も発見できますね。
橋本: ありがとうございます。私はあんまりそこは(笑)そこは自由に(笑)
松居: 何かが起きてるような気はしていて。たぶん1回観ても情報量多くてみきれないと思うので…。あれ、お利口なことしか言えないですね(笑)
————じゃあ、是非パンクな感じで。
松居: 息を吸うように、飯を食うように劇場に来てもらえたら。違うな(笑)
橋本: 頑張って下さい(笑) 難しいですよね。
松居: 「絶対少女ムービー」みたいな見え方なんですけど、考えていたのは、女性の監督には撮れない女の子達の映画にしたいなってことで。僕がそうなんですけど、駄目な男を肯定したくなるんですよね。女性が女性を描いたら、女性を肯定したいかもなって。出来るだけそうしたくなくて。そういう意味で、女性万歳でしょ?ってことではなくて、大森さんなり、橋本さんなり、蒼波さんに、自分が描いた女性像をぶん投げて、みんながそれを壊してくれてこういうものが出来たと思うので、男女を問わず、観てほしいなって思います。
————ありがとうございます。あと、この取材は、(松居大悟主宰の)ゴジゲンの3年ぶりの公演の前なんですけど、記事の公開は公演後になるので、もし一言あれば?(笑)
松居: 大評判でした!(笑)
監督・脚本:松居大悟
1月17日(土)〜 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
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